ホウセンカの熱
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注意:この話は「rose balsam」の続編です。
凍ったハリー視点と、後日談となっています
まだ未読の方は「rose balsam」を先にお読みください。
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誰かが名前を呼ぶ声がする…。
声のトーンではなく、声に含まれる熱が暖かい。
「ポッター。」
低い男の声。いつもはとげを含んだ声が優しい。
ふいに指先が温かくなり、とくん、と鼓動が熱くなる。
また冷気に包まれる中、今度はまた声が聞こえる。
「くだらない噂など…聞かなければ…のを。」
うわさ、と聞いて心が苦しくなる。
「何が有名なポッターだ…。自身で名乗った……というのに。」
頬を何か暖かなものが包んで、かけられる言葉になんだか泣きたくなる。
「お前はただのポッター…自分で自覚…ためだというのに……言葉通りに受け取る。それでは息が詰まる…。」
どこか分厚いものにはばなれるような声はそれでもしっかり届いて、指先が燃えてしまいそうなほど熱い何かが触れる。
再びドクンと鼓動が熱くなり、ハリーはその声の主と温かさに戸惑う。
いつだって意地悪で陰険で…。
冷たい彼がこんな熱を持つなんて考えられない。
じっと自分を観察する視線が熱くて、温かくて…。
とても心地いい。
「・・・問題・・・な…。」
ダンブルドアの声が聞こえて、女性の声も聞こえる。
マクゴナガル先生か、それともスプラウト先生か、はっきりは聞こえない。
「…者から与えられる無償の…としか…がなく…。」
スネイプの声はもう少し聞こえるのに…どうしてだろう、と心が寒くなる。
「ポッターの想い人…だと?」
そんな声が聞こえて、なぜだか顔が熱い。
誰かを好きになったことはまだない。けど、なんでだろう。スネイプの怒ったような声にドキドキが止まらない。
「こんな不器用なポッターが友人に隠しごとなどできるはずがない。」
言い聞かせるような声ははっきり聞こえて、頬を包む手が温かい。昨日もほとんど寝ずにそばにいてくれた。あの心地いい温かな視線がずっとそばにあった。
「ポッター。わかっているのか?このままでは凍ってしまうことを。早いところ心のよりどころを探せば良い物をなぜ見つけない。」
なぜだと憤る声はそのまま額に熱を送る。
あと少しで氷の楔が解けそうだ、と心地よい暖かさに包まれながら想う。
なんだ、こんなに温かい人ならどうして避けていたんだろう、と。
「ポッター…。ハリー。」
名前を呼ばれて、凍る前に伸ばした救済を求める手が暖かなものに包まれ、腰を抱かれる。
えっと思う間もなく、少し開いたまま凍った口にとても熱いものが触れた。
意識と体が急速に引き合い、緩く動いた手を少し強めに握られて、腰をさらに強く抱かれて…このまま溶けてしまいそうだと熱い口づけに夢中になる。
視界がクリアになり、戸惑うように見上げれば今まで見たこともないほどやさしそうで、うれしそうなスネイプの顔があって、再び深い口づけをする。
とろけるような熱に力が入らず思わずすがると、抱き上げられ、どこかへと運ばれる。
どこに連れて行かれるのか、何故か何かを期待する様な気持がわき上がって…。
でも下ろされたのはスネイプの部屋のシャワー室で…何も言わずタオルを渡されて。
とにかく濡れた制服を脱いで外に出すと、温かいシャワーにほっとしながら、スネイプのキスを思い出す。
かぁっと顔が赤くなるのを自覚すると同時に、ぴくっと少し反応する自分に驚いてしゃがみこむ。
さっき運ばれる時に何かを期待する様な自分にも訳がわからない。
スネイプの行動も…自分のこの気持ちも。もうなにがなんだかわからない。
けども、スネイプの温かさだけは確かなものだと、安心したダンブルドア先生達が去ったあと再び口づけを交わしながらハリーは確信していた。
それにしても…マクゴナガル先生達のスネイプへの言葉が気になる。
学生の頃から変わらないだとか…ダンブルドア先生の言葉とか。
深い口づけにとろけそうになりながら、必死に縋り付く。
震える体を抱きしめて体の線をなぞられるとそれだけで立っていられなくなる。
スネイプの抱きしめる手が背中から上下にわかれて…首筋に添えた手がぐっと力が込められる。 これ以上ないぐらい深く口づけられて、息が苦しくなる。
でもやめたくない。
もう片方の下っていく手が腰を…お尻の方に伸びて、そのまま強く抱きしめられる。
キスだけでとろけているのに、そんなふうに触れられると落ち着かない。
種が出るまで他の人と会わないようにと、授業も免除されて…この部屋に閉じこもるのは正直退屈だ、とハリーは授業に行ってしまったスネイプに手を振ってから備え付けのソファーに身を投げ出す。
ふと、今はスネイプがいないことに顔を上げて、寝室へと続く扉を見つめた。
昨晩、スネイプはハリーに寝室を使うよういい、自分はソファーで寝ようとしていたのを止めて、一緒に寝た。
悪夢を見て心が凍り付くのが怖いといって、密着するようにスネイプの匂いに包まれてハリーはこれ以上ないほど上機嫌で眠りについたのだ。
一方スネイプは…ダンブルドアらの言葉と…安心したように眠るハリーに寝不足を強いられていたというのは知る由もないことだった。
寝室の扉を開けると、いつの間にか整えられた寝台がおかれており、そのほかにはあまりものがない。
クローゼットを開ければいつも教壇に立つときの見慣れた服以外の黒い服がはいっていた。
大人の魔法使いの部屋はわからないが、何となく服は黒しかもっていないような気がして、それが予想通りだったのがおかしくて笑う。
部屋の主がいない間の寝室探索は家具がないのでそれで終わってしまい、またソファーのあるリビングというか、仕事場というべきかの部屋へと戻る。
ちょうどそこにスネイプが戻ってきて、ハリーは寝室探索していたことがばれないようにと、ドキドキしながらお疲れ様です、と小さな声で言い、ソファーへと腰を下ろした。
「大人しくしていたかね?」
「もっもちろん!」
笑いを含むような声で問いかけられ、思わず声が裏返る。
ハリーの隣に腰を下ろすスネイプはそれならば、とハリーの顎を掬い取ると軽く唇を合わせる。
大人しく身をゆだねるハリーを抱きしめ、深く口づけると、ハリーもまたおずおずと腕を回してスネイプの背にしがみついた。
キスなんて合わせるだけもしたことがないのに、いきなり深すぎる世界を知ってしまい、ハリーは求められるがままにぎこちなくスネイプの熱い舌を迎え、それに答える。
スネイプもまたハリーが初体験だということを昨日知り、一から教えることに喜びを感じていた。
だんだん力が抜けるハリーは押されるがままにソファーに倒れこみ、その上をスネイプが覆いかぶさって組み伏せられた格好となる。
唇を吸い上げられ、優しく食まれると何かが背筋を駆け抜け、ハリーはびくりと体を震わせた。
そこでスネイプはハリーの赤くなって喘ぐあどけない唇から離れると、なだめるように額に口づけをする。
「明日は何か課題でもだすとするかね?」
ハリーが一日暇にならないように、とそう付け足すスネイプにハリーはキスでぼうっとする頭で寝室探索がばれていると顔を赤くした。
肩口に顔を伏せ、小さくうなずくとスネイプは満足げに細い体を抱きしめる。
しがみつくハリーはこの暖かさと…寝室でもわずかに香っていたスネイプの匂いにほっと息を吐いた。
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