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もう少し調べてみるというスプラウトを見送るとスネイプは再びハリーに触れる。
最初は触れるだけであっという間に肌が焼かれていたのに今は焼かれていない。
「ポッター?」
目覚めようとしているのか、それとも何か別の理由で溶けかかっているのか。
無償のぬくもり…そう考えたところでスネイプは目をしばたかせた。
時間の経過かもしれない。
勘違いかもしれない。それでも、とハリーの額に口づける。
「ポッター…。ハリー。」
言い直すように名を呼び、割れないよう伸ばされた掌に手を重ねる。
わずかに開いたままの口に唇を重ねると少しして唇がわずかに裂ける。
心の中でくすぶるこの”熱”がハリーに伝わればいいと力を込めないようにしながら抱き締めるように空いた手を細い腰にまわすと、冷気で徐々に焼かれるのもかまわず角度を変えてはむように口づける。
ぴくっと重ねていた手に動く気配がして、そのまま指をからめて引き寄せると、腰を抱き寄せる手にも力を込めた。
開いたまま重ねていた唇は戸惑うように閉じようとして、スネイプのそれに阻まれる。
冷たい吐息が熱いものに変わると、スネイプはようやく唇を解放させた。
自身の冷気で霜でも降りていたのか、溶けてぬれた様子のハリーは顔を真っ赤にさせたまま力が入らないのかスネイプへともたれかかる。
戸惑うように見上げるハリーを見つめるスネイプは湧きあがる感情をそのままにもう一度唇を重ねる。
逃げる舌を捕まえ、吸い上げればハリーは完全に力が抜けたのか、抱きかかえるスネイプにすがりつきその身をゆだねた。
ハリーの氷が解けたと、スネイプは伝令をしもべ妖精に託すと、まだ顔を真っ赤にして状況が飲み込めていないハリーを抱きあげてから体を温めたほうがいいと、私室へハリーを連れていく。
浴室に連れていくとタオルを渡して何も言わずに立ち去る。
混乱しながらも寒さが勝ったのか、背後でシャワーの水音がするとマクゴナガルらが部屋へとやってきた。
「いったい急に何が…。」
スプラウトから溶けかかっているかもしれないという話を聞いたというマクゴナガルにスネイプは今はとにかくシャワー室で体を温めさせている、と答える。
「あら、セブルス。貴方唇が切れているけれども…。」
「無償の愛…それが直す条件じゃったな。」
見たところもう血は止まっているようだけれども、というポンフリーに若干動揺するスネイプは後から入ってきたダンブルドアの言葉にさて何のことか、と目をそらす。
「あぁ…。そういうことですね。」
納得したマクゴナガルは様々言いたいことがある様な顔でじっとスネイプを見つめると、乾いた制服を身につけたハリーに目を移す。
「ポッター、どこもなにも異常はありませんか?」
「えぇっと…はい…。」
よかった、というマクゴナガルはハリーを抱きしめると、頬に触れながら体に異常がないかを確認する。ポンフリーもまた異常がないかを確認すると、よかったわとほっと胸をなでおろした。
ダンブルドアのニコニコとした表情から顔をそむけるスネイプに目を移したハリーは顔を真っ赤にして異常はないですとあたふたと答えた。
「これならば種が生きるために体から出ていくのを待つのみです。薬で排除もできますが…。」
「無理に飲まなくても大丈夫じゃろう。何せ、種が嫌う”燃え上がるほどの愛”のそばにいるんじゃ。」
じっとスネイプを見るポンフリーの視線にダンブルドアはうれしそうに笑う。
その言葉に目をしばたかせたハリーは更に顔を赤くして、顔をそむけたままのスネイプを見つめた。
「種が外へと飛び出すまで責任を持ってその熱をハリーの与えるんじゃ。」
「この状態ならばおよそ凍っていた時間と同じ2、3日で種が離れようとポッターの体から出ていくでしょう。」
油断はしないこと、とスプラウトはハリーにくぎを刺すと、やはりスネイプをみる。
「なんですかな?」
顔を赤くして自分を見ない少年と、何とも居心地の悪い視線で見つめる女性3人。
にこにことした様子で温かい視線で見つめてくる大魔法使い。
「セブルス、あなたは学生時代とちっとも変っていないようですね…。」
マクゴナガルの言葉にスプラウトは頷き、やはりそうですかとポンフリーも頷く。
「なっ…何のことでしょう?」
まるで憐れむような、しょうがないといった視線にスネイプがわずかに動揺すると、マクゴナガルは小さく微笑む。
「また凍らないよう、種が消える”まで”、ハリーをよろしく頼みますわ。」
わざわざ強調するマクゴナガルはスネイプに向かっていいですねと、見つめる。
「まるで凍結されたアッシュワインダーの卵の様ですね。氷を取り除いたと思ったらとんでもなく熱いものが出てくる様なんて…。」
あなたの場合は凍ったふりと言った方が正しいかもしれませんがというスプラウトに今度はハリーが目をしばたかせる番で、言い返せないでいるスネイプに視線を向けた。
「ポッター。不服かもしれませんが、種が出るまでのあいだ、スネイプ先生の私室から出ないように。未だ様々な視線が飛び交う中、再び芽が出ないとも限りませんなから。」
「ただ、何か身の危険を感じた時は迷わず逃げてきなさい。」
「ここにいる間は凍る心配がないかもしれないですが…とにかく気をつけて、体に異変があればすぐに報告すること。」
マクゴナガル、ポンフリー、スプラウトの言葉にスネイプ頬をひきつらせ、何も言わず3人…いや4人を睨みつける。
とにかく、無事戻ったことをみんなに伝えてくると、3人が先に部屋を出ると、ダンブルドアはスネイプに近付き小さく頷く。
「皆はあぁ言っておるが…いつも規則厳守のお主じゃ。たまには羽目を外してもいいとわしは思うぞ。」
にこにことしたままダンブルドアは温かい視線をハリーとスネイプに向けて、部屋を出る。
大きくため息を吐いて何かをやり過ごすスネイプは自分を見つめるハリーに目を移して…4人の言葉を思い出して頬をヒクリと動かした。
「えっと…その…。よく状況がわからないんですけど…。」
何が何だか分からないハリーはスネイプを見るなり顔を赤らめながら状況が変わらないという。
「どこかで弾ける実に触れたと聞いたが覚えているかね?」
「え…あ、あぁ!はい!触れました!」
混乱するハリーは消えてしまったあの不思議な植物を思い出す。
「それがコキュートス・ボールサムという…冷たい視線やうわさ話などによって心が凍りつくことにより、芽を出す…条件さえそろえば危険な植物の種だ。」
種の特性上、冷たく接することはできない。
だが…とスネイプはハリーを見る。
「心が凍りつく…。」
すぐに思い当たったのか、納得するハリーはそれで…とまた顔を赤くしてどうして戻ったのかを問う。
「その…なんどか温かいな、って感じることがあったんですけど…。その…。」
「意識はあったのかね!?」
手が暖かいとか、火じゃない温もりの様なものが常にあったというハリーにスネイプは目を見開く。
指先への口づけとか、額への口づけとか…。
「すっごくぼんやりして…分厚いガラス越しみたいに声も切れ切れですけど…。でっでも、スネイプ先生の声だけはまだ聞きとりやすいような風には…。」
誰かが触れているという程度ですが、とハリーはスネイプの凍傷が残る指に目をとめた。
薬を塗ることを失念していたスネイプは素早く手をローブに入れるが、じっと見るハリーからは隠せない。
「氷像を治すのは…。」
言いよどむスネイプは観念したようにため息をつき、ハリーの手をひく。
突然のことに驚くハリーだが、反応するよりも前にスネイプは深く口付けて、逃げる体を両腕でしっかりと抱きしめられてしまうともう逃げ場がない。
あわさる唇が熱い、と角度を変えて何度も口付けてくるスネイプに逆らえず、腕をまわしてすがりつく。
絡められる舌が熱い。
抱き締められる体が熱い。
ついこの間まで冷えて寒かった胸の奥が燃えるように熱い。
「わかったかね?」
何度も口付けたスネイプは自分で立っていられなくなったハリーを抱きとめて耳元でささやく。
スプラウトの言うとおり、まるでアッシュワインダーの卵のように、凍らされた殻の中身がこんなにも燃え盛っていたなんて今でも信じられない。
でもこうして極寒の世界から救いだせるのは、灼熱の想いをもった人でなければならないのは事実だ、とスネイプに抱きとめられながらじっと見上げた。
目が合うなり降り注ぐ口付け。
まるでスネイプの心の熱が自分にも伝播して火がついたようだ、とハリーはこれから変わっていくだろう日々を想いながら今度は自分から口づけた。
~fin
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