私の翡翠

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翡翠色の眼。
私を見る目は常に悔しみ、嫌悪感を携えている。
私もその目に睨みを効かせ、一瞥をくれてやる。
奴にとって私は憎い嫌な先生といった所だろう。それでいい。
ふと、地下を歩く私の目に6人…正確には3人がもめていた。
シルバーブラウンの少年は良く見知っているドラコ=マルフォイ。
そしてその反対側にいる少年の片割れ、ロン=ウィーズリ-。
そしてドラコに憎しみのこもった眼を向ける少年…ハリー=ポッター。
気にいらない。その目を向けていいのは私だけだ。
「Mrポッター。ここで何をしている。グリフィンドールから10点減点。さっさと教室に入りたまえ。」
そうだ。それでいい。私だけを見つめろ。
「ハリー気にするなって。」
「そうよ。マルフォイが先に仕掛けてきたんだから。さ、早く教室に入りましょ。」
ハーマイオニー=グレンジャーが促すと先ほどまで私を睨んでいた目が笑う。
そしていつもどおりの授業を始める。

「ハリー。次どの材料だっけ?」
「え!えぇっと…。どれだっけ。」
「もう。ハリネズミの針5本よ。ほら、火からおろさないと…あ!ネビル!!!」
「ひっ!!!」
 またか…。教室中に漂うこげた匂い。不快だ。
「Mr.ロングボトム!!!我が輩は確かに忠告したと思うが?ハリネズミの針は火からおろしてからだと。グリフィンドールから10点減点!!!ポッター!なぜ事前に止めておかなかったのかね?第一に、ポッター。君の鍋の色はなんだね。我が輩は確かに緑と申したはずだが…。」
 透明の薄紫。
「罰則を与える。全授業終了後ここに来るように。諸君、授業は終わりだ。速やかに鍋を片付けできた薬品は教卓に提出。」

「ではポッター。床を綺麗に磨き、今日使われた鍋を洗いたまえ。」
 教卓に背を預けポッターの動きを見る。
悔しみと憎しみのこもった眼で一瞥し、黙って磨き始める。
そう、私の足元で。ほんの少し残った理性を握りこみながら背筋を這い登る優越感を味わう。
いい光景だな。ポッター。
「ふぎゃ!」
 突然床に張り付く形になり止る。
 どうやらすべって転んだらしい。
 軽くお尻を突き出すようにしてうずくまっている姿に理性が崩れそうになる…。
ふと、残されているポッターの失敗作を見る…これは…。
色は違うものの…使ってやるか。
ポッターの死角で鍋の中身を掬い取る。


「まだ終わらないのかね?ポッター。」
 先ほどやっと鍋に取り掛かった少年はキッと睨みつけてくる。
「なんだね?」
「いえ。何でもありません。」
 再び鍋に目線を落とし黙々と磨き始める。
自分の鍋は最後にすると決めたようだ。
私の傍に居るのがよほどいやなのだろう。
「付き合っておれん。が、罰則を切り上げては意味がない。よって罰則を変えよう。ポッター。自分で作った魔法薬を試してみたいとはおもわんかね?」
 とたんに強気だった顔に不安の影がよぎる。
「安心したまえ。我輩の見る限りこれは毒薬ではない。」
「飲んだら罰則はもう終わっていいんですか?」
「もちろん。毒薬ではないがどのような効果をもたらすかは非常に興味がある。」
 だから飲んでみろと目線で促せば恐る恐るといった様子で鍋の中を覗き込む。
鮮やかな薄紫は鍋の底さえ手に取るように見えるほど透き通っているが作るべき魔法薬ではないため、失敗は失敗だ。

 ゴブレットに移した魔法薬を差し出せばわずかに震える手で受け取り意を決したかのように一気に煽る。
「どうだね?」
「甘いです…。もう帰ってもいいです…か!」
 途端に口から声が出ないよう押さえつけ、見る見るうちに目は潤み息が荒くなっていくのがわかる。
「どうしたのかね?ハリー」
 ファーストネームで呼べば驚いたような顔を私に向け顔をさらに赤くした。
「せんせぇ…毒じゃないって…ぁっ…んっ」
 崩れ落ちそうになる体を受け止め、杖で扉に施錠呪文をかけ音が漏れぬよう、邪魔者が入らぬようにする。
わずかに開いた桜色の唇に自らのをあて舌を入れれば、甘い味がした。
呼吸が苦しいのか生理的な涙を浮かべた瞳はこの上なく美しい。
その双眸に自身の姿を見つけると、すぐさまめちゃくちゃにしたい気持ちが競りあがってくる。
そうだ…。そのまま私から目を離すな。
「ふ…んはぁ…。」
口付けだけですでに形を変え始めた幼いもの。
服越しにそっとなで上げれば小さな体は息をつめた。
「どうしたのかね?自分で作った魔法薬の感想はいかがかな?」
 耳元でささやくように言うと、肩をびくりと動かした。





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