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20:呆れるくらい平和な日々

 広い庭は子供たちにとっては大冒険の場所で、お嬢様、お坊ちゃま、と探す屋敷しもべ妖精が過ぎ去るのを待つと切りそろった花木から赤黒白の髪が覗く。

「よし、今のうちだ」
「いや、そろそろ戻ろうよ。父上と母上が来た時にいなかったら心配する……」
 集まったメンバーの中で一番年上そうな少年は赤い髪を揺らし、シルバーブロンドの少し気弱な少年が咎める。そうそう、と頷くのは黒髪の少年で、まぁ知らない庭じゃないしというのはこの家の子供だ。

 ウキウキとした様子のジェームズは何を言ってるんだ、冒険だ冒険!と目を輝かせていて、ヘンリーは小さく息を吐いた後弟分のアルバスとスコーピウスを見る。スコーピウスにとってこの庭は特に目新しいものはないだろう、と彼の家の庭を思い浮かべて、周りを見る。
 バックガーデンは主に花が咲き美しく、家の近くにある温室は魔法薬の材料があるとかで基本立ち入り禁止だ。ガーデンに咲く花も庭に植えられるタイプの材料もあるとのことだが、特に害はないという事で咲き乱れていた。

「あ!そっちの桜は気を付けて。ボウトラックルが住んでいて……あぁ、だから言ったのに」
 ひときわ大きな桜の木にジェームズが突撃し、降りてきた複数のボウトラックルに追い回される。

「デルフィーニの杖の材料ってあの桜?」
「そう。イスマの尾羽がなかなかいい木に巡り合えなくて……ボウトラックルに許可をもらって花見をしていたら、急にデルフィーニの頭に枝が落ちてきて」
 アルバスの質問にヘンリーが答えると、ジェームズはふーんと特に興味はなさそうだ。足を止めて桜を見上げるアルバスだが、突然落ちてきた枝に頭を打ち、いたたた、と頭をさすった。

「ボウトラックルが落としたみたいだ」
 大丈夫かい?と心配するスコーピウスが上を見上げ、わらわらと動く影に気が付く。ジェームズが大丈夫か?と弟を心配し……ヘンリーが枝を拾う。後で叔父に渡しておこう、と自分の杖と共にベルトに挟み、近づいてきた足音に振り向いた。

「母さん」
「さっきから呼んでたのに、女の子たちしかこないんだから。あれ?ヘンリー、その枝はどうしたの?」
 黒く長い髪を一つに結わいたプリンス夫人……ハリエットはつまらなさそうな顔のジェームズとどこかほっとしているアルバスとスコーピウスを見る。息子ヘンリーが持っていた枝に気が付くと杖の長さにちょうどいい枝を受け取り……わかった、と笑う。

「きっとこれでアルバスの杖を作れってことだと思うから、明日にでもオリバンダーのお店に行ってみるよ。ほら、シリウスがジェームズどこだーって呼んで……はやっ」
 デルフィーニと同じ木だ、というハリエットが走っていくジェームズに気を取られ、顔を赤くしたアルバスには気が付かない。スコーピウスがどうしたんだい?と聞くもなんでもない!とこちらはこちらで走り出す。

「ポッター家はにぎやかだなぁ」
 いったい誰の影響なんだか、とハリエットはヘンリーとスコーピウスと共に邸内へと戻っていった。これはどうだ!という声が聞こえるからに、お土産を広げているのだろう。ちょっと犬おじ邪魔、という声がリビングから聞こえ、私も手伝う!という幼い声がそれを追いかける。

「ガーデンパーティーの準備手伝ってよ。あ、姉さんさっきアルバスが人の顔を見るなり違うから!とか何とか叫んでどっか消えたんだけど……何あれ」
 散らかさないで、と怒るデルフィーニに隣の部屋にいたハリーとドラコ、ロンが顔を出す。スネイプはまだホグワーツで雑務を片付けているが、そのままの流れでポンフリーらも続々と来そうな気がする、とハリエットは一番小さいリリーを抱き上げた。厨房ではウィーズリー家の女性たちが大量の料理を作っている。

 ハリエットが別に戦力外なわけではなく、単純に兄弟が多い分その子供の数も比例して膨れ上がり……結果大量料理を作るのに慣れてしまった4人がやる方が効率的になっただけだ。
 その分ハリエットがリリーとビオラ、そのほかウィーズリー家の年少組の面倒をみている。ハーマイオニーの娘ローズはミネルバと並んで本に夢中だったようだが、今はその本はしおりを挟んで当人らは外に置いたテーブルにクロスをかけている。

 あの二人何を目指しているんだろう、とハリエットは表紙に書かれた題名を見て、シリウスのそばにいるヒューゴに目を向けた。ほらあんたも手伝いなさいよ、とローズに引っ張られていく姿がどこかで見た気がして微笑ましい。しっかり者の姉と少しおとなしい弟。女の子は父に、男の子は母に似るというが、まんまハーマイオニーとロンで面白い、とリリーに請われるままにハリーのもとへと行く。

「ママはまだあっちで戦っているからね。ハリー、お姫様がパパをご所望だよ」
「ありがとうハリエット。どうしたんだい?」
 赤い髪の少女は伯母の腕から父に渡され、きょろきょろとあたりを見回す。ビーは?という娘にビオラならあっちだよ、とバルコニーの先を示す。

「ハリエットおばさん、これ持って行っていいですか?」
「テディ、それじゃなくて奥のを持って行ってもらっていい?そう、それ」
「テディ、わたくしも手伝うわ」

 いつ来たの、というハリエットにハリーがちょうど皆を呼びに行った時だよ、といってテディとヴィクトワールを見る。小さい頃からずっと仲のいい二人に微笑ましいものを見る目で見つめ……トンクスがデルフィーニはどこ?と問う。

「デルフィとティナにフランスのお土産を渡したくて。ハリエット、ますますきれいになったんじゃない?」
 元気だった?というトンクスにハリエットは笑い、トンクスだってきれいになったよ、と返す。ポン、という音が玄関先で聞こえ、式典後の会見が長引いたんだ、というキングズリーが顔を出し、フィニのお姉さんこんにちは!とマグルのティナがそのわきから顔を出す。
 心の友―と喜ぶデルフィーニに久しぶりと挨拶するティナ。トンクスがフランスのメイク道具とイカすアクセサリーあるんだけど、と二人を連れて奥の部屋に消えた。

「やぁハリエット。セブルスはロングボトム教授を助けてから来るって」
「マクゴナガル校長が先か、スネイプ教授が先か……どっちだろう」
 続けて顔を覗かせるのはリーマスとセドリックで、奥から聞こえるトンクス達のこれいいじゃん!という声に顔を見合わせて笑う。マルフォイ夫妻が到着し、出迎えるハリエットがドラコとアストリアに挨拶を交わすと奥からスコーピウスが父上母上と声を上げた。

 あ、おじ様という声に目を向ければ目元にメイクを追加したデルフィーニが顔を出し、にぎやかになっていく。それを見て驚く様子のアストリアと呆れるドラコは淑女教育は無理だろうと苦く笑う。出自を聞かされているアストリアはおかしそうに笑い、私もまねしようかしらと言ってドラコに全力で止められ、またコロコロと笑った。


 5月2日は大戦記念ということと、ヴィクトワールの誕生日だ。午前中は大人たちはそれらに関する式典を行い子供はここへと集まっていた。そして10年近くが経って大仰な式から少し省略化された式典を終え、夕方から始まるプリンス邸でのガーデンパーティーをするために、大人たち……見知った人々が次々に玄関先へと現れていた。
 デルフィーニの両親の命日であり、ハリエットの知る未来での大勢の命日であるため、盛大にお祝いするのでもなくただ戦いが終わった事への平和を祝うパーティー。戦争を知らない子供たちに、次世代に憎しみ合った記憶を植え付けず、ただ、平和となった日を喜んでもらおうと、ハリーとハリエットが声を上げたものだ。

 大体来たかな?と考えるハリエットはまた聞こえた姿現しの音に振り向いた。マクゴナガルがやってきて、委縮しすぎて小さくなったネビルとスネイプが現れる。
 ハリーとロンが小さくなったネビルを笑いながら引き取り、マクゴナガルも勝手知ったる様子でバックガーデンへと向かう。まったくと怒った様子のスネイプにハリエットがお疲れさま、と微笑み口づけを交わす。体調は大丈夫かね?と問うスネイプにハリエットは大丈夫と頷き、エスコートされるがままにパーティー会場へと向かう。

 ガーデンではにぎやかな子供たちの声が聞こえ、大人たちの談笑が聞こえ……。ずっと求めていた日々に繋いだ手をぎゅっと握り締める。どうした?と振り向くスネイプを見て、すごく平和だなって思って、と空を見上げた。
 そうだな、と答えるスネイプがハリエットの視線を自分に向けさせると唇を合わせる。笑うハリエットに母さんたちは仲がいいんだから、という娘の声が聞こえ……照れたハリエットがぱっと離れようとして……スネイプに掴まって腕の中に閉じ込められる。

 まだ春の匂いを残した夕方の空に、光るには少し早い星が一つ流れ落ちた。




ムスカリで紡ぐ不器用な花冠 おわり



2年間に及ぶ連載を続けられたこと、また非常に長い物語となってしまいましたがここまでお読みいただきましたこと、ありがとうございました。

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