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47:始まりを告げる汽笛の音

 いつも通り、4人で座ったコンパートメント。ほんと飽きないねぇ、と呆れるヘンリーと全くだというマルフォイはカボチャのパイを口いっぱいに頬張ったゴイル達を見る。

「まぁ、家に帰ればそういうわけにもいかないだろうから仕方がない」
 そう言って肩をすくめるマルフォイにヘンリーは笑う。いつもはそうは見えないが彼らもマルフォイ家に認められている、純血の由緒正しい家系だ。
 家はどんなものか知らないが、すくなくともウィーズリー家のようなものではなく、ブラック家に近いだろう。

「それにしても、本当に束縛癖があるというべきか……。スネイプ教授は過保護すぎるとおもうんだが?」
 やれやれ、と言うマルフォイにヘンリーは顔を赤らめて、胸元に隠したペンダントを握る。何度か見たことのあるマルフォイは妬けるな、と小さくつぶやいた。

「どうかしたのかい?スネイプ先生にマルフォイ家まで送ってもらうの……変かな」
「いや、なにも。父上もそれがいいとおっしゃっていた。丁度スネイプ教授と話すことがあると、そう聞いたからこそ、昼食前に待ち合わせることになったんだ。時間があれば我が家の敷地を案内しよう」
 首を振るマルフォイは楽しみだ、と笑ってヘンリーを見る。ヘンリーもまた楽しみにしていると返すと、カボチャジュースを飲んだ。
 よくよく考えればヴォルデモートに占拠される前の屋敷が本来はどんな雰囲気だったのだろう。まだ平和なそれを見るいい機会だ、とヘンリーは今年起きる一連の流れを置いて考える。
 今回もハリーには悪いがいろいろ慎重に動かなくてはならないため、きっと連絡はおろそかになるだろう。偽のムーディのこともあるため、下手な行動はとることができない。

 ふと、なにかが胸に引っかかりヘンリーはん?と首をかしげる。今年来るのは偽のムーディ。本物に成りすまして、ばれないよう授業も真面目に行って……。
 ポリジュース薬で成りすましていた、クラウチJr。ムーディが教鞭をとっていたという事実と、すり替えられ成りすましていた偽ものという事象。

「どうかしたのか?ぼーっとして」
 顔をのぞき込まれ、ヘンリーは何でもないというと頭の片隅をよぎった“何か”を見るのをやめて互いにクィディッチの話で盛り上がる。母のおかげで様々なチームのことはちょくちょく情報を仕入れていた。
 だからマルフォイとも普段寮ではなかなか話さない、クィディッチの各チームにおける選手の動向などで語り合う。

「ヘンリーの薬のことが無ければぜひ夏休みを我が屋敷で、と誘えたのに残念だ」
「何を言っているんだ、ドラコ。その気持ちだけで十分嬉しいよ。また薬の改良があると聞いているから、少しは変わるかもしれないけど、ハロウィンの時のことがあるからね」
 ずっと話せるのに、と言うマルフォイにヘンリーは血筋のことは一切触れずに自分の薬のせいだという。彼が大伯母と同じくマグルの性を名乗っている以上、きっと父が許さないだろう。
 わかっていてもどうしても誘いたかったマルフォイは早く薬を飲まなくてもいいようになるといいな、とヘンリーの赤い髪を撫でた。やっぱりそうだよなぁ、と急に呟くヘンリーにマルフォイが首をかしげる。

「いや、ほら……去年?のロックハートの時は髪に触れるのがあんなに嫌だったのに……ドラコは全然嫌じゃない」
 友達だからかな、と本気で首をかしげているヘンリーにマルフォイは咳払いをして、わざとヘンリーの髪をくしゃくしゃにしてから手を離した。

「ちょっと!今わざとやったね?」
「ヘンリーの洗髪、とってもよかった」
 櫛を取り出すヘンリーにマルフォイは笑うだけで話を逸らす。もう、と怒った風なヘンリーもそれ以上は追及せず、先生にも褒められた、と無邪気に笑った。

「ほんとそれ反則」
 マルフォイはため息を吐くと、最近髪質が妙によくなった寮監を思い浮かべる。ヘンリーが関わっているのだろうというのは、彼の髪質がキープされていることからわかってはいたが、ヘンリーが洗っていたというのはなんだか胸がもやもやする。
 2回髪を洗ってもらったがいずれもそのあとヘンリーはスネイプに連行されて行った。隠しているのだろうが、あからさま過ぎる、とどこか眠たげなヘンリーを見る。あくびをかみ殺すヘンリーはマルフォイと目が合うと照れ笑い、日記書いていたら遅くなったという。

「まだあるから眠いなら寝ていたらどうだ」
 そしたら僕は本の続きを読ませてもらおう、としおりの挟んだ本を出すマルフォイにそうしようかな、とじゃあ少しだけ寝るよ、と先に眠っているいつもの二人を見てから背もたれに寄りかかってヘンリーも目を閉じた。
 まだ魔法は使えるな、と杖を出すマルフォイはヘンリーを引き寄せると肩に寄りかかる様にする。肩に寄りかかる重みに満足げに頷いて、静かに本を読み始めた。
 願わくば、このままどこまでも行ければいいのに、とらしくもないことを考えていびきをかき始めたゴイルに杖を振って音を消す。

 名付け親からの手紙に喜び片割れと、新しいフクロウに喜ぶかつての親友と……鞄から赤い猫のマグカップを取り出して誕生日何あげようかしら、ほほ笑む親友と……微睡む親友を肩に乗せた少年の複雑な想いを乗せた汽車は、未来に待ち受ける暗雲へと近づいていく。

 未来を知るただ一人の記憶の通りに、闇が目覚めようとしていた。



ムスカリで紡ぐ不器用な花冠 第三学年 終








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