--------------------------------------------
決戦の片付けも終わり、只一つ心配事を抱えるハーマイオニーにロンは肩に手を置くことで何も言わない。
「そうだ、ハリーの誕生日。何か…。」
忙しくて、それよりもハリーのことが心配で、ついつい日にちの感覚がおかしくなっていたというハーマイオニーはノワールが来ないかと空を見る。
たくさんの手紙がハリーあてに届いた。
中には呪いもあったし、何よりハリーがそれに目を通している場合ではなかったから、梟便は全てこちらに来るようになっている。
唯一、ハリーとスネイプが助けたというノワールだけが連絡手段だった。
空を見ていたハーマイオニーの肩をロンが揺さぶって、なによ、と振り向けばロンはあれ、と震える手で何かを指さす。
「あれ…誰の守護霊だ?」
静かに表れた守護霊にハーマイオニー達だけでなく、たまたま近くにいたモリーやジミー、ネビル達もぽかんと見つめる。
雌鹿のような、小鹿のような…どちらともとれる守護霊はハーマイオニーの前に来ると、男の声で逝った、と短く伝言を伝え消える。
すぐさまキングズリーに伝えると、彼はあの森のそばに立つ家を示した。
駆けつけるハリーを知る学友やマクゴナガル、ハグリッドがあの二人だけの秘密の家にやってくると、がらんと物音一つしない室内に息をひそめ、思わず立ちすくむ。
「彼がいるのは2階の奥の部屋だ。」
皆よりも先に来ていたというキングズリーに言われ、ロンが先頭に立ち深呼吸をした後戸を開けると、寝台に横たわる親友の姿に絞めつけられた胸から無理矢理声を捻りだすような声で、その名を呼ぶ。
5本の深紅の薔薇と、ハリーのではない杖を握って眠るハリーにハーマイオニーはわっと泣きだすと、そばにすわりこんだ。
ばさりと音が聞こえたのはその隣から。涙をぬぐいながら振り向けばあの漆黒の梟…ノワールが引き出しを叩いて一同を見つめていた。
「中に何があるの?」
ハーマイオニーの問いかけにノワールは答えず、引き出しをもう一度たたくと、開いたままの窓から飛び立っていく。
ロンが引き出しを開くと、その中には何通もの手紙が入っていた。
神経質な細い字をみつめると、先生は?とハーマイオニーは勢いよく立ちあがった。
「彼はもう旅だったよ。ハリーの杖と、魔法薬に関する一切と…植木鉢を持って、彼は我々の世界から姿を消してしまった。」
嗚咽を漏らす人々の後ろからキングズリーの声がハーマイオニーの問いに答える。
「本来の杖を置いて行ったということは、もう彼は強い魔法を使うことはできない。死喰い人としても不死鳥の騎士団としても、もう彼は魔法使いとしてはいなくなってしまったんだ。」
彼の居場所はノワールしか知らないだろう、というキングズリーにハーマイオニーはただ小さく首を振る。
ハリーの葬儀についての新聞に目を落とすスネイプは戻ってきたノワールに大変だったなと、ねぎらう。
ノワールは怒ったようにしながらも、戻ったことをバラの鉢植えに伝えるようにその葉を軽くついばむ。
机に放り出された新聞にはおびただしい数の…999本にも及ぶ赤白ピンクのバラが式の最中に届いたことが小さく取り上げられていた。
誰かの悪戯かと憤る関係者だったが、一部の関係者は誰からの贈り物かわかっているのか呆れたようにため息をついていたことが書かれていたという。
3本のバラと、一輪のユリの花がゴドリックの谷の小さな墓地に夜陰に紛れるほど黒い鳥が数十年にわたって毎年欠かさず届くことになるのは贈り主を知る人々を驚かせ、彼の平穏と幸せをただ、静かに祈った。
〜fin
|