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疲れて喘ぐハリーに覆いかぶさり、小さな体を抱きしめると、赤く染まった目尻に口づける。
起き上がるヴォルデモートはハリーの体をなで、どこに印をつけるか…そう目を細めて考える。
「そろそろ戻らないとなハリー。」
「うん。ありがとうヴォル…。」
杖で情事の後を消すヴォルデモートにハリーも起き上がるとまだ赤い目元をこすり、恥ずかしげに笑う。
その表情にヴォルデモートはハリーを引き寄せ、触れるだけの口づけを交わす。
「ハリー。我慢などするな。ハリー、お前は死喰い人とは違う…信頼できる存在だ。つらい顔を見るのは俺様としてもつらい。」
唇をふれさせながらささやく言葉にハリーは目を見開き、嬉しい、とヴォルデモートに腕を回す。
「僕も…。僕も同じだよ。ヴォルデモート。」
寮に戻ったハリーを談話室で迎えたのは親友二人だ。
心配そうな顔でハリーを見るなりほっと息を吐く。
「帰ってきてずっとハリー見ないから心配したのよ。」
「夕食も食べずにどこ行ってたんだよ。」
よかったと繰り返すハーマイオニーにロンもまた心配そうな顔で笑いながら首をかしげる。
「ごめんごめん。ちょっとうとうとしてた。2人こそ、探し物見つかった?」
透明マントにくるむようにしてローブと仮面を隠し持つハリーは謝りながらも、僕が邪魔だったくせに、と心の中で呟く。
「あーうん。まぁ。」
曖昧にうなづくロンに、ハーマイオニーはお店に行ったらロンがいてびっくりしたのよ、という。
そっか、と流すハリーはマント置いてくるね、と部屋に駆け上がり、ローブと共に仮面をトランクに入れる。
死喰い人のように全体を覆い隠す仮面ではないが、それでもいいと、ハリーは仮面の表面をなでると蓋を閉じしまう。
【ハリー。】
【大丈夫。無理はしてないよ。】
耳元で聞こえた声にハリーもまた答えると、羊皮紙を手に談話室に降りていく。
早々に課題を終えたハーマイオニーはクルックシャンクスの毛を整え、その向かい側でロンが羊皮紙を前にうめいているいつもの光景。
「寝てたからまだやってないんだ。魔法薬学のレポートって羊皮紙何枚だっけ。」
「日曜日ぐらいは解放されたい…今日中に終わらせれば明日は…休みだ…。」
うめくロンにハリーはだよね、と笑って答えると書き始める。
「ねぇハリー…。ハリーが前に私達に好きな人ができたっていう時…あれってスネイプじゃなかったの?」
急に声をひそめ、尋ねるハーマイオニーにロンは羊皮紙にインクのしみを作り、ハリーは思わず手を止めた。
「勘違いだったらごめんなさいね。でもあの頃のハリー…ずっとスネイプの事を目で追ってたし…少しの間だけど、すごく楽しそうだった。急に落ち込んで元気がない日が続いたと思ったら何というか少し変わったかしらって…。」
違う?と言うハーマイオニーにハリーは目をそらし、答えたくないと返す。
今はヴォルデモートを想う気持ちが一番だが、前の思い人の話なんてヴォルデモートに聞かせたくない。
裏切り者の話なんて、自分を通しで両親に復讐をしていた男を想っていた時期の話なんてしたくもなかった。
「ずっと前に終わった話なんだ。今は僕を必要としてくれる、彼だけが一番なんだ。彼しかいらない。僕を傷つける嘘をつくことも、裏切ることもないあの人だけが僕の全てだから。」
ゆるく体に巻きつく蛇…ヴォルデモートに言うように、あの裏切り者を忘れるためにそう言い切るハリーは羊皮紙を埋めていく。
「そう…。嫌なこと思い出させてしまってごめんなさい。ただハリー、気をつけたほうがいいわ。何があったか聞かないけれども、最近のスネイプ…なんだかハリーの事なんて表現したらいいかわからないけれども、すごい目で見ているから。ロン、せっかくの羊皮紙、まっくろになってるわ。」
「え!?ああ!!!」
ハーマイオニーはクルックシャンクスを床に降ろし、ハリーに謝ると、最近気になるスネイプの事を伝える。
首をかしげるハリーに蛇はするりと抜き出ると、壁の方へと這っていく。
【どこ行くの?】
【薬の様子を見に行ってくる。後一歩で完成だからな。」
どこかに消えていく蛇に問いかけるハリーにヴォルデモートは答えると寮を出て行った。
薬を見に行くのも大事だが、それよりもあのハーマイオニーが言っていた言葉が気になる。
おそらくはスネイプだけが自分とハリーを疑っている、と通常は思いもしない発想に達しているしもべの一人にヴォルデモートは目を細めた。
闇の陣営であることからダンブルドアに言われ、距離を離したが、その守ろうとした本人が自身の手中にあることに怒りを覚え、何も知らないハリーにそれをぶつけられず澱のようにたまっているのだろう。
それが決壊した時…理性やら全てが降りきれた時、無垢で穢れのないあの子供は完全にこちらへと傾き、手に入れることができる、そうヴォルデモートは考えていた。
まだハリーは同じではない。
必死に自分と同じところに降りてこようと、水面近くでもがいているだけ。
大空を飛ぶことをやめ、完全にこの冷たく、暗い底に降りてくれば…この両手で抱きしめられる。
唯一の温かみとして互いに唯一になればいい。
そう考えたところでヴォルデモートは蛇のまま立ち止まる。
ただ、この考えには一つ欠点として、ハリーを…あの純粋すぎる魂を嫉妬と他にぶつけようがない憤りを混ぜたあの男の前にさらし、全てを捨てさせる決心をさせなければならない。
先ほどとは違い、その点だけ想定することさえ怒りがにじむ。
幸い、蛇になっているときは傷越しにあまり感情が伝わらないらしく、ヴォルデモートの怒りはハリーには伝わらなかったが、ヴォルデモートは念のためと地下へと向かった。
配管を伝い、スネイプの私室に向かうと本をめくる音が聞こえ、気配を消しつつその音に集中する。
「人魚の涙…この程度の魔法薬ではないはずだ…。ユニコーンの血…若返りの…延命…。」
盗んだ材料はついでに自身が使うものも含め、他にも適当に盗ったがその中でも特に注意しなければならない材料をスネイプは理解していたか、とヴォルデモートは人の姿であったら口角を上げていたであろう気持ちを抑え、戻っていく。
ハリーが欲した薬が何か…そのうちわかるだろう。
そしてそれがわかってしまえばあの男は怒りに身を任せ何をするかわかったものではない。
さて、とヴォルデモートは必要の部屋の前に来ると人の姿に戻り、部屋を呼び出すと中に滑り込んだ。
ハーマイオニーの進言通り、ハリーはたびたび嫌な視線を感じ、そっとうかがい見ていた。
離れたところにいる魔法薬学の教授は探るような眼で自分と…ヴォルデモートを、蛇を見つめている。
【ハリー、そのまま聞くのだ。準備が良ければ次の土曜決行だ。魔法省に行く算段が整ったようだ。】
朝食をとっていたハリーにヘドウィグがやってくると、唐突にヴォルデモートが囁く。
「あら、へドウィグ。」
ヘドウィグが持ってきた小さな封筒にハーマイオニーはごくろうさま、と声をかけ同じようにねぎらうハリーを見た。
「彼の知り合いからみたい。急ぎじゃないみたいだから後で読むよ。」
ありがとう、と声をかけるハリーにヘドウィグは誇らしげに鳴き、飛び去っていく。
「もう2カ月?ハリーさみしくないの?」
ずっとあってないじゃない、というハーマイオニーにハリーは大丈夫だよ、と答える。
「今は彼から預かった大切なものが側にいるし、手紙も貰ってるから大丈夫。あ、そうだ。クリスマスのプレゼント、僕がほしい物言ったらいいよって。」
嬉しそうに笑うハリーは前に話していたクリスマスプレゼントの話しを2人に伝えた。
だめもとだったが、今はどこにつけてもらえるのか、それが楽しみでしょうがない。
「よかったじゃん。僕はなーうーん…あんまり思い浮かばないかも。」
ロンはほしい物浮かばないなーとくびをひねる。
ハーマイオニーは以前きいていたから特に変わっていないらしい。
「あ、そうだ。土曜の昼、彼が会えるっていうから会ってくるね。」
そうだというハリーに2人は顔をちらりを見せあってからわかったと頷く。
土曜日になり、ハリーは誰かの視線を浴びることなく、ホグズミードの町外れまでやってきた。
流石に近くには行けないというヴォルデモートはハリーを抱きかかえ、一枚の紙を渡す。
「ロンドンにある赤い電話ボックスが外来客の入口だ。そこで用件を聞かれる。神秘部というのが管理しているが、ここは他の部署とは違い互いに連絡を取っていない。杖は俺様が預かっていよう。そうすれば預ける必要もなく地下へと向かえる。」
電話のダイヤルと、さっと書かれている簡単な見取り図を渡すヴォルデモートはハリーにそう囁き、ローブをハリーにかぶせる。
「うん。大丈夫。もし誰かに声をかけられたらダンブルドアに予言の話しを聞いた。きちんとききたいから来たっていうね。ヴォル、傷を通してある程度僕の見ていること見えるんだよね。みててもいいからね。戻ってきたらこのポートキーを袋から取り出せばいいんでしょ。」
フードをかぶり、なるべく顔が見えないようにするハリーはヴォルデモートを仰ぎ見ると僕の意識を半分のっとってもいいよ、という。
低く笑うヴォルデモートは用があるからハリーに任せると答えた。
ぽんという音と共に、姿くらましをするヴォルデモートとハリーはロンドンの少し奥まった路地に姿を現すと、ハリーを残し消えていく。
一人残されたハリーは久々に杖がないことに不安を覚えるが、自分を襲うと考えられている者たちが、実はハリーに指一本触れることすら許されていないことを想い浮かべ、ひっそりとほほ笑む。
すぐに目当ての電話を見つけ、紙に書いてある通りにダイヤルを回す。
すぐに女性の声で用件を聞かれたため、神秘部に自分の予言を聞きに行きたいと告げた。
出てきたバッチには名は名乗っていないのにもかかわらずハリー・ポッターを書かれ、先ほど伝えた用件が記載されている。
だから本人はこれなかったのか、とバッチをつけたハリーは魔法省へと入り込んだ。
大きな噴水にはゴブリンやら複数の種族が人間を敬うような姿で笑みを浮かべており、ハリーは知らず冷めた目で一瞥し、地下へと向かうエレベーターに乗り込んだ。
多数の人が歩きまわっていたエントランスとは違い、誰もいない廊下を歩くと見えてきた扉をノックする。
「僕と例のあの人との間で伝えられた予言の詳細を聞きたいんです。対象者の予言の閲覧は可能だとうかがってきました。」
出迎えた男はいぶかしむようにハリーを見つめ、用件を聞くと中にはいるように促した。
一方、ハリーが寮から出かけたことを見届けたハーマイオニーはロンを引っ張り、地下へとやってきた。
怯えるロンをしり目に扉をノックするとすぐに応じて出てきたのは眉間にしわを寄せたスネイプだった。
不機嫌に2人を見下ろすスネイプは真剣な表情のハーマイオニーに目を止め、ため息をつきつつ中へと促す。
出かけるつもりだったのか、消えていた暖炉に火をともし、置かれているソファに座るよう促した。
向かい合わせで座ることとなり、ロンはますます萎縮し、不機嫌そうな顔のままのスネイプはなんのようかね、とハーマイオニーに尋ねる。
「あの…ハリーのことなんです。最近様子がおかしくて…。」
「英雄殿の事ならば我輩より君たちの方がよほど詳しいだろう。」
ハーマイオニーの言葉に内心眉をピクリと動かすスネイプだが、表情には出さずいつも通りの嫌いな生徒に接する時の様にふるまう。
「いいえ。この前、ハリーにスネイプ教授との関係を聞きました。もう終わったことだからって言われましたが、つまりは以前は関係があった、ということですよね。」
ハーマイオニーの言葉がスネイプにとって痛いところに刺さったのか、無表情だった顔にさっと影がかかる。
その様子にロンは逃げ出したい気持ちを抑え、はらはらとハーマイオニーとスネイプを見比べた。
「前に…ハリーから相談をうけたんです。年上の…しかも同性の人が気になって仕方がないんだって。何度も助けてもらったからとかじゃなく、どうして好きなのか言葉に出せないけど、好きな人ができたんだって。可笑しいかなって悲しげに笑ってたし、何より私たちはそんなこと気にしないよっておかしくなんかないってそう答えたんです。」
「ハリー、すっごく嬉しそうに笑って…。ちょっと経ってから聞いたら告白成功したんだって笑ってました。」
ハーマイオニーの言葉にうなずくロンはおずおずと以前の話しをする。
そういえばまだ2人には詳しく話していないと言っていたかつての姿を思い出し、スネイプは知らず眉をさらによせた。
「でも…2,3カ月だったかたったころに急に元気がなくなって…。ある時、ヘドウィグから何かを受け取ったハリーがすごい怖い顔をしていて…。どうかしたのって聞いたら何でもないよって…あの…夕食にハリーが来なかった日です。」
ハーマイオニーの言葉にあの日、“嘘つき”と言われたことをあの時のままにそっくり耳によみがえるスネイプは目を伏せる。
あの日…ハリーはその誰かの手紙を受け取り…そしてその後、新しい相手を見つけていた。
ふと、いくらなんでも早くないか、と思い当たったスネイプはいつから、と口を開いた。
「確かに…3か月とはいえ、ポッターの…ハリーの思いを受け取り、他愛のない会話やお茶を飲むぐらいの関係ではあった。」
かくしたところで仕方がない、それよりも…ハリーの相手がどうしても気になる。
胸騒ぎと言えばいいのか、とても嫌な予感がする。
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