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注意:この話のハリーは思考がかなり闇落ちしております。
また、話の都合上、完全に裏描写ではないけど、裏描写が混じる場所があります。
そういうのが苦手な方は作品一覧にお戻りください。
また、終盤に話が2回分岐する箇所がございます。
お好きなルートをお楽しみください。
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冷え切った地下の廊下を足取り重く歩くスネイプは珍しく大きなため息を吐いた。
事の発端はある生徒との密会がダンブルドアに知られたことだった。
事あるごとに愛が大事だと言ってはいたが、まさか闇の陣営とのダブルスパイである自分がその拠り所になっていることに危機感をもたれてしまったらしい。
できればもう少し情勢が落ち着くまでと、勉学の励むようにということで指示が出たのだった。
確かに最近妙に勉強が偏り、そわそわしていて落ち着きがない。
この状況で万が一闇の陣営らに狙われたりでもしたら大事になるのは目に見えている。
おそらく部屋で待っているであろうその小さな恋人にどう切り出せばいいのか、足取りもさらに重たくなるものだった。
「あ、先生。ダンブルドア先生が急に呼び出しなんて珍しいね。顔色が悪いようだけど…先生、大丈夫?」
扉を開けてすぐやってきたのは最近できた、例の恋人。
翡翠の目を輝かせながらやってきた恋人は何も言わないスネイプに不安げに眉を寄せた。
「もしかして…ダンブルドア先生に僕のこと…怒られた?」
何も言えないスネイプはさすがに気がつくか、とため息を吐いた。
ハリーの脇を通り抜け、ソファーに腰を下ろすとすぐ隣にハリーも腰を下ろした。
「いや…。最近のポッターの授業態度が悪いことを懸念されていた。そのことで我輩が何か知っているかということだ。」
さて…どうきりだせばいいのやら。そう悩むスネイプにハリーはそっと寄りかかった。
「あ、あのね。先生。今日お泊まりしちゃだめ?」
悩むスネイプにハリーは顔を赤らめながらだめかな?と繰り返す。
「最近全然先生と一緒にいられなかったからさみしくて…。」
「何度も言う様にここには泊められない。寮があるのだからきちんと戻りなさい。」
駄目だ、というスネイプだが、本当はいろいろと大人の事情とやらがあったりもする。
それにダンブルドアに忠告されている身で、距離をあけると言った手前親密な行動はできるだけ避けるべきだ。
「うん…。わかったよ。それじゃあ先生、おやすみなさい。」
うなだれるハリーの額に軽く口づけるとおやすみ、と戸をあけ透明マントで姿は見えないものの、遠ざかる足音にスネイプは大きく溜息を吐いた。
それから2週間。
何かしら理由をつけ、できるだけハリーを遠ざけるスネイプにハリーは大きく溜息を吐いていた。
「あら、ハリー。ご飯食べないの?」
「最近元気ないけど大丈夫?」
朝食を前に溜息を吐いたハリーにハーマイオニーとロンが声をかける。
2人にはまだスネイプとの関係をはなしていないため、どうしようかとハリーはまた息を吐いた。
「あのさ…僕…今その…。スネイプにやたら突っかかられてまいっちゃっているだけだよ。ごめん心配させて。」
打ち明けようとするが、今現在の微妙な雰囲気になかなか言い出せない。
スネイプとポッターは仲が悪い。
皆の前では以前のその関係を演じていた。
あまり好きではないそれを利用することに、ハリーは内心溜息をつくが他に思いうかばなかった。
「あぁ。この間まで酷かったもんな。どうしてハリーにばかりそうやって突っかかっていたんだろう?最近ずいぶん減った気がするけど…。」
ロンの言葉にたしかに、と無理やり笑うハリーは再びため息を落とした。
夜、来ないでほしいと言われてはいたがどうしても会いたくてハリーは透明マントをはおり、こっそりと寮を出た。
「セブルス、前に言っていた件じゃが。」
「わかっております。ポッターとはあれ以来私的にあっておりません。」
玄関ホールについたところでふいに聞こえた声に立ち止り、ハリーは息をひそめた。
どうやらやっぱりダンブルドアに知られ、それでスネイプは急に距離を開けて欲しいと言ってきたようだ。
少しホッとするハリーだが、二人の会話が少し気になり耳を澄ませた。
「そうか。セブルス、今はおぬしにとっても厳しい状況じゃ。」
「心得ております。ダンブルドア校長。」
少し遠ざかる声にハリーはそっとついていく。
「つかぬ事を聞くが…ハリーとは深い中にはなっておらんじゃろうな?」
ダンブルドアの言葉にスネイプの足音が消える。
「えぇ。もとよりハリーはまだ子供。談笑するぐらいで特別なことは一切しておりません。我輩が本校の生徒であり、未成年の…ましてや同性に手を出すと疑っているわけではないでしょうな。…えぇ、違いますとも。そこまで疑うのであれば、我輩の目を見ていただければおわかりでしょう。」
すまなかったの、というダンブルドアにスネイプは分かれるとそのままどこかへ去っていく。
誰もいない談話室に戻ったハリーは透明マントをかぶったまま力なく椅子にすわりこんだ。
自分は本当に真剣に…。
だからか、と唇をかむ。
どんなにお願いしても泊めてくれなかった理由。
それは自分だけが舞い上がっていて、スネイプは鼻からそんな気は一切なかったと。
幸い、明日は休日。
メモを書くと自分のベッドに置き、ハリーはそっと部屋を、寮を、ボグワーツを出て暴れ柳の下をくぐり叫び屋敷へとやってきた。
少しかび臭いような埃が軽く積もった寝台に構わずすわり、横になる。
杖を寮においてきていたがそのことさえどうでもいい。
投げやりな気持ちになり、大きく溜息をつくと体を反転して寝台に顔をうずめる。
バカみたい、と落ち込むハリーは何度目になるのか溜息を吐いた。
ふと、何かをひきずる音がし、顔を上げる。
誰か来る、と身構えるものの杖はない。
とにかく起き上がらないと、と起き上がりかけたハリーは強い力で押さえつけられ、寝台に顔を押し付けられた。
「これはこれは。ハリー・ポッター。ここで会えるとは思ってもみなかったぞ。」
冷たい声にハリーはぎくりと身をこわばらせた。
背後にいる男…ヴォルデモートは面白そうに笑うとハリーの腕を杖から出した蛇で縛り上げ、体を反転させる。
杖から緑の光がぱちぱちと飛び出ているのに気が付いたハリーは顔をこわばらせ…ふっと力を抜いた。
今ここで危険な目にあったところで誰が悲しむのか…。
ハーマイオニーやロンは悲しんでくれるだろう…けど、想いの人はどうなのか…。
ハリーの雰囲気に変化があったことに気が付いたのか、ヴォルデモートは面白いものを見つけたとばかりに口角を上げ、ハリーを縛ったまま顎に手をかける。
額の印が痛むようだが、それでもはむかう気はなさそうだ。
「杖も持たずにこのようなところにいるとはな。どうした。貴様はなぜ足掻かない。」
「どうせ僕が死んだところで…校長先生も、あの人も悲しまない。」
新しい玩具を見つけた子供のような感情が持ち上がり、ヴォルデモートはハリーの顔を覗き込む。
開心の呪文がかけられる、と考えたハリーはとっさに目をそらすがヴォルデモートは短い間に得た情報だけで十分理解した。
「まったくもって愚かだな。貴様のその眼だけに用があるといえばいいものを。」
「眼…?いったい何の話?あの人は…あの人はただ…。」
ヴォルデモートの手が頬を撫で、ハリーの目を開くように添えると、憐れむかのように呟く。
眉を寄せるハリーだが、ふと時折スネイプが見せた複雑そうな視線を思い出した。
いつだったか、スネイプが気になり、彼が時折見せる視線がただ憎い生徒を見るというのではないことに気が付き…自分の思いをただ…ただ必死に伝えて…それから夜や放課後に一緒にお茶を飲み、キスをし…ただ抱きしめるという関係にまでなった。
抱きしめられた時、ふと感じる不思議な視線。
それが何を意味するのか分からなかった。
「気になるのならば直接聞けばよかろう。それにしても妙なものだな。嘘つきで傲慢で…それでいて自分がすべて正しと過信する愚か者と、別の男を胸に宿しながら他の男と結婚した裏切り者…。その両者から産まれた息子がまさか…愚か者の容姿と性格を受け継ぎ、裏切り者の面影をしているとはな。」
ヴォルデモートの言葉に何のことかと考えるハリーだが、それが両親の事だとわかり怒りをあらわにする。
「父さんと母さんを侮辱するな!!」
かっとなり、つかみかかろうとするが縛られていてできない。
先ほどと打って変わってにらみつける少年にヴォルデモートはぞくりとした優越感を味わう。
「では俺様にその証明をして見せろ。立派だというな。だが、今のままでは情報が不足しているだろう。俺様が知っている情報を教えてやる。一つ。ジェームズ・ポッターとシリウス・ブラックはある生徒を執拗に追廻し、ことあるごとに罵声を浴びせていた。二つ。リリー・ポッターは幼馴染がおり、その幼馴染の思いを知っていながらジェームズ・ポッターと結ばれた。その幼馴染とは特別親しかったのをジェームズ・ポッターによって引きさかれたというのに。おまけに、その男の思いを利用して二人は…何かあった場合にお前を託すと…そう約束したそうだ。」
ヴォルデモートが楽しんでいるのがよくわかるハリーだったが、その幼馴染について誰だか思い当り顔をこわばらせる。
「そうだな…来週までに答えを聞こう。俺様はしばらくここにいる。調べた結果、俺様が嘘をついていると証明できたらあの爺に俺様の居場所を教えるがいい。だが…できなかった場合はもう一度ここへ来い。なに。ハリー・ポッターは人を騙したり嘘をつくのがいやな少年だ。お前は必ず約束を守るはず。」
嗤うヴォルデモートはハリーの腕を解放すると扉までの道を開ける。
戸惑うハリーだが、わかったとつぶやくと叫び屋敷を後にした。
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