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体の大きなトロールは威力がでかいが早さはない。
目に向かって結膜炎の呪いをかけると、あたったトロールはむちゃくちゃに手を振りまわし、どたばたと地団駄を踏む。
そのすきに扉をくぐると、驚いた様子のハーマイオニーがそこにいた。
「まさか本当にトロール倒したの!?」
「そんなわけないだろう。っと、炎が邪魔だな。ハリーは!?」
扉と炎の数歩だけある隙間にいるヴォルは部屋の中をのぞき、ハリーがいないこととスネイプが最後の守りと言うことを確認する。
「先に進むための薬が一人分しかなくて…。もしもあなたがトロールを倒したら薬を飲んでダンブルドア先生を呼んできてほしいって。」
「そういうことか…。まだそこまでダメージを与えられていない。でもハーマイオニーから目をそらすことはできるだろう。俺が戻って5秒したら薬を飲んで左側の壁を伝って戻ってくれ。」
ハリーに頼まれたことを伝えるハーマイオニーにヴォルは少し考えると、頷くハーマイオニーを確認して扉の向こうへと消えた。
大丈夫、彼を信じてと自分に言い聞かせるハーマイオニーは5秒数えると薬を飲み、扉を開けた。
大きなトロールにひるむハーマイオニーだが、すぐヴォルに言われたことを思い出し、左の壁に沿うように走りだした。
トロールは背を向けているが自分を見る気配を感じ、必死に走り抜ける。
「こっちを向け!クルーシオ!」
扉に向かっていくハーマイオニーはトロールの足音で聞こえなかったが、苦しげな咆哮を上げるトロールから逃げるように扉を押しあけて戻って行った。
ぐらりと視界が揺れるヴォルはとっさに思い付いた呪文だったが予想以上に効いた、と同時にかなり高度な呪文だな、と息を整える。
額に手を当てるとハリーのくれたブレスレットが顔に触れ、無茶しないと心で呟きながら軽く口づけた。
そうするとなんだかハリーが手を握ってくれているような気がして、ギュッと杖を握りこんだ。
「ステューピファイ!」
赤い閃光が走り、トロールはふらふらっとよろめくと地響きを立てて壁に向かって倒れ込みつつ頭を強く打ちつける。
ピクリとも動かなくなったことを確認すると、ヴォルは壁に寄りかかりながら座り込んだ。
流石にへとへとだ。
ハリーを追わなきゃ、と思う一方で高度な魔法を使いすぎたせいか体がひどく重だるくいうことを聞かない。
まいったなとため息をつくと、閉じている扉から霧状のものが現れ、はっと杖をもち直す。
「貴様か…。」
「お前は…そうか…レイブンクローの冠は確かホグワーツ内に…。いっ!」
霧が男の顔を取ると、ふいにどこかの部屋に何かを隠す光景を思い出したヴォルはずきんと痛む頭に手を置いた。
『リリー!ハリーを連れて逃げるんだ!あいつだ!行くんだ!!ここは僕が食い止める!』
そうだ。扉を吹き飛ばして入った時男の声が聞こえた。
『 』
緑の閃光が走り、眼鏡をかけた男が足元に転がる。
階段を上がると赤い髪に緑色の瞳をした女が赤子を抱き上げようとしていた。
女が何かを言って、自分も何かを返して…。
『 』
再び閃光が走り、女が崩れる。
火がついたように泣く赤子は緑色の瞳から涙を流し、あらん限りの声で泣いて…。
『 』
全てが闇に包まれた。
『てぇへんだ…。ぉおっと!何だこの黒い布の塊は…。まさか…いや……ア…』
消えていく意識の中、男の…ハグリッドの声が聞こえて…。
チリンっと、杖とブレスレットが当たり、ぶつかったにしては妙な音が響く。
その音にハッと意識を戻すと目の前の霧を見つめた。
腕につけたブレスレットが暖かい気がしてようやく自分の体の感覚を取り戻す。
「なるほど…。どういうわけかわからないが…隠しておいたあれを…分霊箱をクィレルが見つけて…お前が奴に憑依し、たぶらかしたというわけか。」
「グリフィンドール生となって生ぬるい生活に身を投じて…落ちぶれたものだな俺様も。」
箱が壊れたのか、抜け出した奴にそう時間は残っていないはず、と考えるヴォルは“かつての自分の残骸”をにらみ、どうしたものかと考えていた。
嘲笑う姿にカチンとくるが、“以前の自分”であれば静かに…それでいて確実に挑発に乗っていたな、と自制し、杖を握る手に力を込める。
もう体力がないが、あれならば破壊できる。
「お前は俺様だ。やがて俺様に戻る。ならば…今俺様がお前の魂に戻ったところで何の問題もないだろう。」
「あいにく、今の俺様の魂は一から再生したおかげか、元の分ける前だ。それに、俺様が誰かという記憶が戻ったとはいえ、この12年間はあの糞以下の生活と違って刺激が多くてな。今の生活にもそれなりに満足している。他人を見下すだけの…随分とみじめでさみしい思い出しかないお前なんかに戻る気はない。俺様は俺だ。お前なんかじゃない。ハリーにもそういわれたんだろう?残骸。」
徐々に消えかけているかつての自分に、ヴォルはきっぱりと言い放つと、霧の男はちっと舌打ちをした。
「やがてわかる…。お前は俺様だと言うことの意味が。」
「そうだな。もしその時が来たならば…俺様の…俺の命を一度は脅かした…この杖が認めた相方がどんな手段を持ってしても止めるだろう。いい加減消えろ!ヴォルデモート!」
怒りをにじませる過去の男にヴォルは言い放つと、緑色の炎の蛇を杖から噴き出した。
ふと、めまいを感じたヴォルの杖から炎が消え、ほとんど霞程度になった男が最後の叫び声を上げながらヴォルの体に体当たりをする。
とっさに杖を持った手で守りの体制をとる。
パキンっという音が聞こえるとともにヴォルの意識は闇の中へと落ちていった。
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