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「ヴォル、重くない?」
「大丈夫。ハリーこそ重くない?ハーマイオニー、マント大丈夫そう?」
先頭を切って歩くヴォルに後ろを支えるハリーは大丈夫と答えると、真ん中とマントを支えるハーマイオニーもまた大丈夫よと声を出す。
「ノーバートがヴォルの魔法で気絶していてよかったわ。暴れたりでもしたら運ぶの大変だったもの。」
「そうだね。でもあんなに暴れまわったノーバートがヴォルの呪文で気絶するなんて…。ヴォル、具合悪くなったりしてない?」
大人しくてよかったと言うハーマイオニーにハリーは頷き、先頭を歩くヴォルの体調を心配する。
本当にハリーはいい子だ、とヴォルは口元をほころばせ、振り向きたいのを我慢した。
「大丈夫大丈夫。結構抑えて出したし、あれ結構初歩的な呪文だし。」
前を進むナギニの後を追って歩くヴォルはそういえばどこでこの呪文知ったんだっけ、と考える。
セクタム・センプラに至っては全く覚えがない。
ふと、緑色の閃光が頭をよぎるが、何の呪文だったか思い出せない。
ほんの少し森に入るとハーマイオニーとハリーは体をこわばらせ、黙ってヴォルの歩調に合わせて歩く。
「何かしらあれ…。」
ハーマイオニーの言葉にハリーとヴォルはほらあれ、という方向に顔を向けた。
「あれが…ユニコーンの血か…。ハーマイオニー早くでるぞ。ちょっと危ないかもしれない。」
ナギニから話を聞いていたヴォルとハリーは銀色に光るユニコーンの血に目を止め、急ごうと歩みを速める。
どうしてわかったのか、聞きたそうなハーマイオニーもそれどころではないと考えてぐっとこらえて歩く。
ほどなくして湖のほとりに出ると、森から離れやれやれと透明マントを脱いだ。
ノーバートを下ろし、空をみていると箒にのった数人の影が湖の水面を撫でるように低空飛行で飛んできた。
「これが例のノルウェー・リッジバック種だね。」
降りて来た青年が木箱をみて随分大人しいなと言うと、今気絶しているとヴォルが説明する。
ドラゴンに精通した青年たちも君の呪文はすごいなぁと感心すると、ハリー達の手伝いもあって4つの箒でつるすように固定し、小箱が水に触れないよう、飛び去っていった。
「さて…帰ろう。」
「ハグリッドのところにもいかなきゃ。」
あー重かったと言うヴォルにハーマイオニーは忘れてないでしょうねという。
ふと、ヴォルは黙っているハリーに目をとめた。
「なんか…頭が痛いんだ…。傷のところが…。ヴォル、ハーマイオニー。早くここをでよう。なんか…怖い。」
自分の腕をさするハリーは森を見つめ、行こうと促す。
眉を寄せるハーマイオニーだが、ナギニが警戒するように鎌首を持ち上げたことにわかったわ、と念のために杖を出して歩きだした。
行きは本当に短い距離だったはずなのになぜか長く感じてしまう三人は辺りを警戒しながら慎重に歩く。
「ハリー!?大丈夫?」
「…ハーマイオニー…。悪いけど、ハグリッド呼んできてもらえるか?」
頭が痛い、と足をとめたハリーにハーマイオニーが振り返り様子をうかがう。
それとほぼ同時に緊張したような声でヴォルは森を見つめながらハーマイオニーを促した。
え?と顔を上げたハーマイオニーは何かを見つめて緊張しているヴォルに汗が浮かんでいることに驚く。
「どっどういうことよ。」
「今目をそらすとやばい…。頼むから…呼んでこい。ハリーは俺が何とか守るから。」
痛いとうずくまるハリーに手を差し伸べるヴォルは森の奥を一点に見つめ、俺たちは今動けないと言う。
徐々に張りつめる空気のなか、ハーマイオニーは迷った挙句すぐ戻るわと、ハグリッドのいる場所へとかけっていく。
差し伸べた手がハリーに触れ、気がついたハリーがその手を握るとヴォルもまた強く握り返す。
ズキンとした痛みがヴォルにも襲いかかり、思わず片膝をつく。
「ヴォル…大丈夫?」
ヴォルの見つめる先にハリーが目を向けると、横たわり光る血を流す白いユニコーンと、屈んでいる人影が。
背を向けている人影はそのまま立ち上がると身を寄せあう少年たちをみる。
吹き飛ぶ扉、逃げるんだと叫ぶ男、緑の閃光…吹き飛ばした扉とこちらを睨む女…。
再び走った緑の閃光と泣きだす赤子。この赤ん坊を殺さねば…殺さねば…。
「ヴォル…」
痛みで頭がいっぱいになるヴォルの耳に苦しげなハリーの声が聞こえ、はっとヴォルは目を見開いた。
泣き叫ぶ赤子の幻が消えてかわりに苦しそうなハリーの顔が目の前に現れる。
ヴォルが正気に戻ったことに気がついたのか、ハリーはほっとしたような顔をするとがくりと気絶した。
強張る手を開くヴォルは青ざめ、すぐ近くにする気配に顔を上げた。
手を伸ばせば届く距離に人影が立ち、するすると近付いている。
ふと、銀色に輝く鹿のような形をしたゴーストか、何かの魔法か…ヴォルの記憶にない光が疾走するように近付き、角のない頭で人影へとぶつかる。
慌てた様子の人影は雌鹿から逃げるとどこかへ消え、ヴォルとハリーの頭痛が少し収まる。
雌鹿は気絶しているハリーと自分を見つめる少年をじっと見つめ返す。
光る雌鹿は一歩踏み出すとすぐそばへとやってきた。
ふと、そこで緊張の糸が切れたヴォルはハリーをかばうように抱きしめてその場に倒れる。
ぼんやりと目を覚ましたハリーは覗き込むハーマイオニーとロンと、様子を見に来たマダムポンフリーと…眉間にしわを寄せたマクゴナガルとスネイプを順に目に入れて起き上がった。
もう頭痛はしないものの、気分が悪いのと喉が少し痛い。
「ハリー!やっと目を覚ましたのね!」
「ハリー達が運ばれてきてびっくりしたんだよ!大丈夫かい?」
何が起きたのか…ゆっくりと思いだすハリーにハーマイオニーと医務室にいたロンがよかったと安どの声を上げ、背後の怒りの気配に声を落とす。
「ヴォル…ヴォルは?」
はっと辺りを見回すハリーはハーマイオニー達の視線の先をたどり、ハリーのベッドの隣で床に座っている深緑の髪を視界に入れる。
「ポッター。セルパン。グレンジャー…貴方達は一体何を考えているんです!禁じられた森のそばに外出禁止の時間に出歩いて!!」
マクゴナガルの怒鳴り声にヴォルに声をかけようとしたハリーは首をすくませた。
ハーマイオニーはあの…と言いかけてどうしようと、こういうとき変に頭のまわる少年をみる。
ひどく何かに落ち込んでいるらしく、うなだれたまま悄然とした様子で座ったまま動かない。
「マクゴナガル先生!その…おれが…」
入口近くにいたハグリッドが慌てて三人をかばおうと口を開く。
「はっハグリッドに手負いのユニコーンを探してるって聞いて…ユニコーンなんて見たことないから見に行こうって…。えっと…ハグリッドがユニコーンの銀色に光る血は夜のほうが見えるって…そう聞いて…。」
ノーバートのことを話そうとするハグリッドにハリーは必死に頭を回してそれよりもましになるようにと言葉を続ける。
結果的には嘘じゃない。
そうなんですか、と鋭い目をハグリッドに向けるマクゴナガルにハグリッドはこくこくと頷いた。
「今回はハグリッドの不注意な言葉にのってしまったということで退学はいたしません。が、一人50点の減点です!まったく…前代未聞です。今夜中に生徒が四人も出歩くなんて。」
「先ほどドラコ・マルフォイが君ら三人の姿を見たと、玄関ホールで戻ってくる瞬間を捕まえてやろうと隠れていたのを見つけた。規則は規則として50点の減点を言い渡している。」
マクゴナガルとスネイプの言葉にハーマイオニーとハリーはえっと顔を上げた。
ヴォルが普段ハリーのそばにいるからか、ほとんどかかわってこないマルフォイだが、どうやらヴォルにひと泡食わせてやろうと画策した結果…といったのが妥当なところだろう。
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