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結局ずるずるとスネイプに対して答えを出す事ができず、週末になってしまった。
先週の話では再来週になると聞いていたのだが、珍しくフクロウ便が今日来い、と言う手紙を携えてきたのだ。
「ちゃんと話しなさいよ。」
「うん…。話を聞いてくれればいいんだけどね。」
 大きなため息をつき、いってくると言う声と共に透明マントをかぶった。
どう話を切り出せばいいのか考えながら叫び屋敷内に入ると、目の前で屋敷の扉が開く。
普段の彼ならばまずとらない行動に、驚いたハリーの腕を掴み、強引に中に入れ、ソファーに投げ出す。
「ちょっと!いきなりなにすんの!」
「ハリー、この一週間何をしていた。」
 突然の事で怒るハリーに対し、ヴォルデモートは細い腕を押さえつけ、誰もが震え上がるようなほど冷たい声で問う。
一週間で起きた事…。
「何言って…。」
「俺様と別れてから貴様は何所で誰と何をしていた!」
 流石のハリーも怒声に脅え、言っている事を判読する。
すぐさま…いやもとよりわかっていたが、何のことを言っているのかすぐにわかったが、それを口にすることが恐ろしい。
 
目を見つめられ、凍てつくその目から目をそらすことが出来ない。
呆然とする頭の中で開心術を使う気だとわかっていても、目の前にいる恋人の怒気に飲まれ指一本動かすのさえままならない。
「俺様と別れてから次の晩、何を考えていた!」
 その言葉に、恐怖で金縛りにあっていたのがうそのようにハリーは力の限り抵抗した。
「ひどいよ!傷を通してお互いの事を探るの無しって約束したじゃんか!」
 この怒り方…どうも変だと思えば傷を通してハリーの考えていることなどを勝手に読んでいたらしい。
以前絶対と約束していたはずの約束をやぶられ、これ以上ないと言うほど怒っていた。
どうにかヴォルデモートを押しのけると距離をとる。
「僕は…ヴォルの所有物じゃないんだから!!あれも駄目これも駄目って縛り付けといて…約束までやぶるなんて最低!」
 引き止めるためか捕まえるためか、伸ばされた腕を叩き落とし、ハリーはそのまま脱兎のごとく屋敷から狭い通路を通ってホグワーツに帰ってきた。
 
追ってくるかと思えばそういう気配もなく、そういえば部屋を出てくる際に散々罵声のようななにやら夢中でヴォルデモートに浴びせていたな、と思い出しハリーは自己嫌悪にかられ、トボトボと城の裏手にある人目のない芝生に腰掛けた。
 
 
“お互いに傷を通して干渉する事はよほどのことがない限りやめておこう。無意味に詮索は無用だ。いいな。”
“うん。絶対だからね。だからヴォル、勝手に僕の頭の中に入ってくるのは禁止だよ!約束”
“いいだろう。”
 
 
そう本人が言っていたはずなのに…。
膝を抱え、その中に顔をうずめる。
故意的でなくとも浮気じみた事…いや、浮気をしてしまった事でハリーに非はある。
約束をやぶられたという事だけで怒ったが、本来怒るべきは彼のほうでは…。
ふと。足音が聞こえ、すぐ真横で歩みを止める。
誰が来たのかは薬学独特の匂いをはらんだ風ですぐにわかる。
「いつまでここにいるつもりかね?風邪を引くと思うのだが。」
 反応を示さないハリーにため息をつくとその隣に腰を降ろす。
 
「…すまない。」
自分の告白にハリーが苦しんでいるのかと思い、スネイプは小さく謝罪した。
その言葉にハリーはようやく首を振り、顔をあげた。
「違うんです…。先生が悪いんじゃないです…。ただ…喧嘩しちゃって。散々酷いこと言って…逃げてきちゃったので…。僕の方が最悪だ…。」
 じわりと既に熱くなっている目から涙がこぼれた。
ふと、いつの間に目の前にかかがみこんでいたスネイプの指がその涙を掬い取る。
今まで見せた事のないスネイプの行動に、ハリーはそのまま彼の腕の中で泣き疲れるまで泣いた。
徐々に落ち着きを取り戻したハリーはまだ流れる涙を袖で拭いつつ、スネイプの腕から離れる。
「すみません…。なんか…落ち着かなくて…。僕もうなんだかよくわからないんです。」
 どうしても決められないというハリーにスネイプはやさしく頭をなでる。
「ここでは本当に風邪を引く。私の部屋に来なさい。紅茶でよければ出せるが…いやかね?」
 
小さく頭を振るハリーを引き連れ、スネイプは自室の戸をあけた。
そして一週間前のようにソファーに座り、紅茶を飲む。
ふと、ハリーは思い出したようにふっと笑った。
「そういえば先週もこうして先生の部屋で紅茶を飲みましたね…。」
「あぁ。だが、あの時言ったように別に返事を急くつもりはない。我輩が一番落ち着く場所がこの部屋なのでな。」
 普段とは違い、柔らかな雰囲気のスネイプにハリーはほっと力を抜いた。
2人の会話が途切れる。


「ごめんなさい…。僕…まだ…。」
「わかっている。ここからは我輩の腕にかかっているようだからな。
まだお前の心を掴んでいる奴から奪うかがな。」
では最初に…そう言い、スネイプはそっとハリーの唇に軽く重ね合わせる。
ハリーもまた、目を閉じると合わさろうとするスネイプの唇を待った。
しかし、突然ハリーの身体が大きく後ろに引かれ、驚くままに侵入者に抱きかかえられる。
慣れ親しんだ…独特の低い体温と…大きな手。
あのスネイプですら気配に気がつかなかったのか、それでも杖を取り出し構える反応は早い。
 
「やはり貴様か…。セブルス=スネイプ…。」
怒気を露に左手で構える杖はスネイプ同様相手を捉えて微動だにしない。
「何故ここに…。」
「俺様のものを取り返しに来たまでだ。」
その言葉にハリーは会った時身体に満ちていた怒りの炎を再び燃え上がらせた。
「ちょっと!!ヴォル!僕はヴォルの所有物でもなければそもそも物じゃないんだから、勝手に人をもの扱いしないでよ!」
何とか腕から逃れようと身を捩る。
が、流石に大人と子どもの差…かなうはずが無かった。
「わかっている。」
「わかってないよ!いっつもいっつも…僕がヴォルに言ったのなんてアバダとか人を殺しちゃいけないって言うのだけなのに…なんで友達に触れるのも駄目、においの強いものに触れても駄目。ダンブルドア先生と話すのも駄目…あれも駄目、コレも駄目っていい加減にしてよ!」
 なんとかヴォルデモートを突き飛ばすとハリーは見下ろす男の顔を睨みつけた。
「それは…。お前がどんな事をしているの心配で…」
「余計なお世話だよ!僕だってヴォルは何をしているのか、誰と会っているのか、僕のほかに身近にいる死喰い人の女の人と何かあったらとか…いっつもいっつも思っているのに…それを聞くのはいやだから我慢しているのに…。」
ハリーは顔を赤くしながら日頃溜めていた言葉をぶつける。
 
ヴォルデモートはその気になれば何時でもハリーの様子をナギニやその他蛇に任せられる。
が、ハリーはそういったことはできない。
マルフォイに聞くのも手だが、彼はまだヴォルデモートとハリーの関係を知らない。
言うつもりもない。
「…そんなもの。無い。俺様にはお前がいるというのに何故ほかを見なければならん。」
「そんなの…そんなのヴォルじゃないんだからわかるわけないじゃないか!!」
ぐっと俯く目からはらはらと涙がこぼれる。
 
完全に事の成り行きからおいていかれたスネイプは両者を注意深く見る。
ハリーが悩んでいた恋人の独占的なことと一致するヴォルデモート。
かたや自分が思いを寄せる魔法界の英雄。かたや自分が昔…崇めた事もある魔法界の大犯罪者。
「突然会えないって言う梟が来たときとか…時間に遅れてきたときとか…すっごく…すっごく心配で…何かあったんじゃないかとか…。僕よりも身近に大切な人が出来たんじゃないかとか…。僕みたいな子どもはもう…。」
 きつく抱きしめられハリーは泣きながら肩を押す。
「ハリー。俺様が…唯一永遠(とわ)に離さないと…いっそのこと目の届くところに縛り付けたいほど愛した唯一の人間だ。この命尽きても誓おう。」
石化するスネイプの目の前でハリーに目線を合わせ誓うヴォルデモート。
「本当に…?」
「あぁ。なんならば契約の契りを交わしてもかまわん。」
そっとハリーの頬を両手で包み込み、合わさるだけの口付けを交わす。
 
「いつでも…側にいられるもの達に嫉妬した…。」
「嫉妬…嫉妬してくれてたんだ…。」
ハリーは顔を赤く染めヴォルデモートの首に腕を回し方に顔を埋める。
「長居はできんが…せめてもの償いだ。互いに安心できるまで…側にいる。」
「え!?そんなことして…もしもダンブルドア先生に見つかったら…」
心配げなハリーの頭を撫で額に口づけをし、再び互いの唇を合わせ安心させるかのように微笑む。
 
もっともその笑みを見てしまったスネイプには溜まったものではないことだが。
 
「恐らく既に気付いているだろう。が、来ないということならば…黙認ということだ。もっとも…他の教員にばれない限り…な。」
じろりとスネイプを睨みつけ、当然お前が言わなければな…と目で言う。
ヴォルデモートの視線に気がついたのかハリーは振り向き、
冷や汗をかくスネイプがこのやり取りを観ていた事に気がつき、焦ったように頭を働かせる。
「せっ先生…。ごめんなさい…。やっぱり…僕にはヴォルしか…でもね先生。スネイプ先生のこと…嫌いじゃないです。」
「ハリー…。」
「セブルス、当然…外部に漏らせばハリーがどうなるか…判らんわけではあるまい。そして服従呪文に掛かっていた…などと言う事は立証しづらいことも。どうする。他の教員に…魔法省に言うか?」
ぐっと言葉に詰まるスネイプにすがるような視線を送るハリー。
ハリーを愛している彼がそんな事できるはずもない。
 
 
それから数日間後…
「慣れって怖いわね…。」
ぼそりと呟くハーマイオニーにハリーは顔を上げる。
丁度必要の部屋でお茶をしているところだ。
「最初…ハリーの恋人の名前聞いた時は失神するんじゃないかってほど驚いたけど…。」
「まさかその日の内に必要の部屋で顔合わせするし…。」
まさか校内にいるとは思ってもみなかったとロンが呟く。
「しかも自由時間とか休日とかに…。」
「「面と向かってお茶なんて。」」
疲れた様子の2人にハリーは苦笑する。
問題の”それ”は特に気にした様子もなく、ハリーの隣でこの数日間、上機嫌にお茶を飲んでいる。
 
 
 
―fin― 




ということで、丸一年前の2周年記念で「いっそのことヴォルと喧嘩してスネハリ」
でした!
 
題名は結局ほとんど浮かばなかったのでもしかしたらそのうちこっそり変わっているかも…です。
両手にバラにしようかと考えたのですが…どっちかというと蛇…だよなということです。
 
本来はヴォルハリ→スネハリで終わりなんですが…。
また元に戻るという教授涙目なことをしてみました(笑)
 
亀よりも遅いのではないかという更新スピードの加え、休止中になってしまいましたが、今後とも蛇道雷君をよろしくお願いいたします♪



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