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発端は彼の蛇さながらの執着心と独占欲。

友達と雑魚寝するのも駄目。
友達と手を取り合って喜ぶのも駄目。
薬草学の授業でついたハーブのにおいも勘違いするから駄目。
ゲームでふざけて取っ組み合いしても駄目。
クィディッチで汗をかいた後勝利を喜んで抱きあっても駄目。
むしろ自分以外とのスキンシップ禁止…。
 
冗談じゃない!
 
 
そう言って怒る少年の隣に親友の二人。
「浮気なんてするわけないのに!」
 シャワーを浴びてから行ったにもかかわらず続く疑い。
「ハリー、これじゃあ人ごみとか歩けないわね。」
「それにしても…授業のハーブをうかうか触る事もできないなんて…。香水とかと勘違いするなんてよっぽどじゃん。」
 
最初のころは気をつければよかったが、ここまで増えてくると流石に頭にくる。
昨日の晩会った時でさえダンブルドアの手が乗った肩に顔をしかめ、疑いの目を向けてきたのだ。
何度好きなのは誰かをはっきり言っても無駄。
そもそも疑い深くなったのはハリーが風邪で1週間フクロウも出せず保健室にいたこと。
風邪だったといってもすぐには信じてもらえず…。
「僕だって僕の生活だってあるし、人生だってあるんだからアレもこれも駄目とか縛り付けないでほしいよ!」
 最近では帰らなくてはならない時間ギリギリまで迫ってくるため、
寮に帰る時はぐったりと疲れてしまう。
それでも今尚付き合っていられるのはやはり彼…ヴォルデモートが好きだからである。
だがこのまま続けばどうなるのか…なんていうのは分からない。
 
大変ね、とハーマイオニーに慰められ、ため息をつく。
「でもこれでしばらく距離を…とかするとますます疑うんだろうね…。」
 ロンの意見に同意しつつうなだれる。一体どんな奴なのだと思うが名前などは教えてくれない。
「いいよ。来週会った時にゆっくり話し合うから。…聞いてはもらえないだろうけど。」
 はぁとため息をつき、廊下を曲がる。
ふと、ハーマイオニーがいち早く気がつき、慌ててハリーのローブを掴み地団駄を踏んだ。
だが、振り向きかけたハリーはそのまま何かにぶつかってしまった。
ロンとハーマイオニーの小さな悲鳴。
一面が黒で塗りつぶされ何も見えない。
それでもハリーは一体何に…いや誰にぶつかったのかすぐさまわかった。
独特の魔法薬の匂いを染み込ませたローブを着る黒い人物…。
 
「スっスネイプ先生。すみません。」
 慌てて飛び退き、頭を下げる。
3人は同時に2重の意味での心配事が頭をめぐる。
スネイプのいちゃもん。
そして、なによりも先ほどまで話していた人物の事。
ハリーがよりによってスネイプにぶつかったという事でまた誤解が…。
「ポッター。レポートについて2・3聞きたい事がある。今すぐ我輩についてくるように。」
 やはり逃れられなかったかと内心思い、逆らえば減点と言うのは良くわかっている。
溜息を飲み込み、トボトボとスネイプの後をついていくことになってしまった。
「大丈夫?ハリー。談話室で待ってるわ。」
「すぐ終わる事を祈ってるよ。」
 いたわるような表情で二人に見送られ、目の前を歩く長身の黒い影だけを追う。
連れて来られたのは見慣れない扉の前。
もしかして何か罰則でもさせられるんじゃないかとハリーは再び漏れそうになる溜息を飲み込んだ。
それでも若干小さな溜息が漏れるが前を行く男には聞こえなかったらしい。


そのまま中に入るとどうやらスネイプの私室のようで。
何が起きるのだと身を強張らせ、閉じた扉の前で固まってしまった。
「ポッター。何をしている。其処に座りたまえ。」
 そういわれて示されたソファーの端に座る。
 
減点や罰則なら少し対応が違う。
頭の中ではわかっていたが、それでも混乱は起きる。
程なくして目の前に紅茶まで置かれ、ますます混乱する。
もしかしたらこの紅茶には毒でも入っているのでは…。
 
「毒など入っておらん。」
 考えた事を見透かされ、ハリーは思わず驚いて顔をあげる。
目の前の椅子にはハリー同様にスネイプまで腰掛け、紅茶を一口飲んでいた。
ありえないありえない!
そう唱えたが現実が変わるわけでもない。
何か起きるのではと思うがやはりスネイプが怖いのと喉が渇いていたことから素直に紅茶を飲む。
 
 
「先ほど…廊下で大きな声であったが何かあったのかね?」
 恐る恐る紅茶を飲んでいたハリーは咽こんでしまった。
ありえない!ありえない!
これは策略?それともなんか新手の嫌味!?
罰則を言い渡されるのではないかと身構えていたハリーは思わずスネイプをまじまじと見てしまう。
「あ…特には…。」
 最もヴォルデモートとの関係を知られてはまずいスネイプに素直に言えるはずがない。
だいたい、素直に言わなければならないという理由もない。
言葉を濁したハリーはそのまま紅茶を飲む。
「まさか英雄殿の手を煩わせるような恋事情があるとは思いもしませんでしたな。」
「そっ…」
 そんな事はないと否定しようとしたが、聞かれていたのかと顔を赤らめる。
そのまま紅茶を飲み干すとスネイプを睨みつけた。
「よっ用件が以上でしたら帰っても…!!」
 いいですか?と言いかけたハリーの目の前でスネイプは立ち上がり、ハリーのすぐ隣に腰掛けた。
思いもよらない行動に驚くハリーの顔を覗き込む。
「ポッター。我輩ならば…お前を苦しめるほど縛りつけはせん…。」
 どこかずっと続く闇を連想させる瞳に見つめられ、ハリーは動けなくなってしまった。
そう。まるでヴォルデモートに見つめられた時のように…。
「ハリー…愛している。」
 突然のスネイプの告白に、驚くハリーの唇に何かが押し当てられた。
一度離れ、再び触れる…スネイプの唇。
頭の中ではヴォルデモートを想う気持ちがいけないと警告を出していたが、何故か押し返す事ができなかった。
 
 
どうやって寮に戻ってきて、2人を誤魔化して就寝時間になったのかハリーはぼんやりとしか覚えていなかった。
ただ先ほどの…スネイプの告白を思い出していた。
「答えを急ぐつもりはない…。」
 確かそういわれた。
今でも好きなのは誰かと聞かれればヴォルデモートと答えられる。
だが、最近の態度にうんざりしていたのは事実。
するとどうしても…縛り付けないといったスネイプを突っぱねる事ができない。
 
 
縛り付ける傲慢な恋人。一時は命を狙われたことすらある…。
 
縛り付けないといった嫌いな教師。でも彼は何度か助けてもらった覚えもある。
 
なにより…ホグワーツにいる限りずっと傍にいられる。
だがヴォルデモートは…週に1度会えるかどうか。連絡も取りにくい。
傍に居なければやはり寂しい。
ここらへんが潮時なのかもしれない。
ハリーはため息をつくと眠りについた。
考えすぎたのか頭が少し痛んだが、それよりも心地よい睡魔に包まれ、朝起きる頃には痛みのことはすっかり忘れていた。

 



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