「ハリーの……新しい恋人とやらはいつごろからいた」
一線を超えないよう、最低限生徒と教師であることをまもりつつ、大切にしよう、そう考えていた無垢な花を誰かが横から奪い取ってみだらに咲かせてしまった。
そのことが一番悔しく、悲しく、そして過去の古傷をざっくりとえぐる。
「わかりません……。でも……ハリー……その次の日体調を崩して昼まで休んでいました」
ロンの言葉にスネイプは朝見かけなかった姿を探し、グリフィンドールをにらむように見つめ……昼の終り頃にやって来たハリーに何があったのか……
体調が悪かったのか、見定めようと見つめていたことを思い出す。
そしてその2週間後……ハーマイオニーにいわれて慌てて何かを隠した姿を思い出した。
また怒りに流されそうになりスネイプは大きく息を吐く。
「その相手の影響か……ハリーの様子が変だと。そういうことかね」
スネイプが問いかけるとロンとハーマイオニーは顔を見合わせ揃って小さくうなずいた。
「以前はパーセルタングだって嫌がっていたのに……」
蛇を預かり、日中ずっと体に巻きつけていたハリー。嫌な予感がさらに膨れ上がる。
「実は生徒諸君には内密にしていたが……最も強力な魔法薬の本が何者かに盗まれ……姿を消したものと蛇が結託して我輩の倉庫から特に貴重で厳重に保存していた材料が何点か盗まれた」
これは先日起きたことだ、というスネイプにハーマイオニーはあっと小さい声を上げた。
「もっとも、本を盗んだものと……材料を盗んだものは別人だ。ハリーがあの扉を開け、厳重に保存されている中からピンポイントでもっていけるとは考えられない」
ラベルをわざと貼っていなかったため、現物を知らなければもっていけないはずだ、とスネイプは続ける。
今度はロンが小さく声を上げる番であった。
「何だね」
「あっいや……前に……夜……蛇が脱皮を始めたから置いてきちゃったって……それで一緒に談話室でチェスをしてたことが……」
いつもトランクか鞄に入れていた透明マントをそのときもっていたかわからない。
ただ。
ハリーのそばから蛇が消えていたことは少なく、最近で言えばその日ぐらいだ。
ロンの言葉にもしもハリーがいつもつれている蛇がアニメーガスで……そして愛蛇を使い陽動を仕掛け……そして本人が倉庫に向かっていたとしたら……。
あり得ないことではない。だが、前提条件としてハリーの想い人であり、現在ホグワーツに潜入していることが必要不可欠……。
ふと、学生時代を知っているもので、ハリーに包み隠さず話すであろう人物が頭によぎる。
いろいろ学生時代世話になったルシウス。
彼は自分とハリーの関係を知らない。
そして自分とジェームズ……そしてリリーの関係を知っている。
スネイプの中でばらばらで画にもなっていなかったパズルが組み立てられていく。
急に黙りこんだスネイプを不安げに見つめる2人は突然聞こえたノックに驚き、身を縮ませる。
「誰ですかな」
「わしじゃよ。セブルス」
見たくもないパズルの絵を押しやり、応じるスネイプが扉を開けると声の通りダンブルドアがたっていた。
ダンブルドアはハーマイオニー達がいることに眉を上げ、スネイプをちらりを見上げる。
「あ、しっ失礼しました」
慌てて立ち上がり、部屋を出ていくハーマイオニーにロンが続き、ぱたぱたと走っていく。
それを見送ったダンブルドアはいつもの優しげな表情はどこへやら、大魔法使いと呼ばれるだけはある威厳のある顔つきになると確認じゃ、という。
「ハリーにあの予言の事を……ヴォルデモートとの予言の話しをしたかの?」
唐突な言葉にスネイプは目をしばたかせた。
予言?
あぁ、と苦い記憶と共に思い出したスネイプはいいえと短く答える。
苦悶の表情を浮かべるスネイプに、彼が犯してしまった取り返しのつかない深い後悔の記憶を呼び覚ましただけにすぎないことを悟ったダンブルドアはそうか、と呟く。
「実はの……今さっき魔法省から神秘部にハリーがきて、予言を聞いて行ったとの情報が来たのじゃ。知らせてくれたものは学校はどうしたのかと、そう問おうとしたそうじゃが……ロンドンに出た途端ポートキーを使って消えてしまったそうじゃ……。予言は本人しか聞くことができん。ポリジュース薬などを使っても無駄じゃ」
どこで予言の事を聞いたのか……そう考えるダンブルドアにスネイプはまだ一部見えていないものの、ハリーの隣にいるのが誰か……言おうがなしにわかってしまった。
見当もつきません、と出した声がはたしていつも通りの声色だったか、それすら自信のないスネイプは同時にこみあげてくる怒りを表に出さないよう必死に隠す。
閉心術にたけていてよかった、と習得までのいきさつを考えると喜びたくないがこの時ばかりはよかったと心のそこで思う。
「ハリーは先ほどホグズミードから戻ってきたそうじゃ。もっとも、また出かけるという可能性はあるんじゃが……」
それを聞いている時間がない、と伝えるダンブルドアはヴォルデモートらの事件で不安になり魔法使いたちが散り散りになるのを防ぐため、各地を飛び回っている。
心得ております、と答えたスネイプに一瞬疑うような目を向けるダンブルドアだが、遠くで聞こえる鐘の音に急いでその場を離れていく。
今すぐ問いただしたい。
だが、自分の事を避けるハリーに問い詰めたところで彼は口を閉ざすだろう、とまだ残されていた理性が冷静になれ、と必死に抑え込む。
幸い、来週からは冬休みだ。生徒が減り、余計な情報を他人が知る機会が減る。
もしも……いや、そうであってほしいと願うばかりだが、服従の呪文でこのような関係になっているのならば、少しでもハリーの居場所を守るため……
スネイプは機会を待つんだ、と自分に言い聞かせる。
ハリーには服従の呪文が利き難いという話を聞いた気もするが、きっと精神が弱っているときにやられたに違いない、と怒りやら嫉妬やらで痛む頭を押さえた。
薬を煎じるヴォルデモートは授業中でいない、まだ幼さの残る顔を思い浮かべる。
ちょうど明日からは冬休み。
自分の薬ももう出来上がる。
そして、と隣で煎じているハリーがほしがった薬ももう出来上がる頃合いだ。
未だ互いに愛だ好きだなど言ったことすらなく、どう思っているのかそして思われているのか、それすらもわからない。
そして、とハリーから聞いた予言の話し……一方が生きている限り片方が生きられぬというくだり。
それは自分かハリーどちらかが死ぬことを示している。
だが、とヴォルデモートは目を細めた。
両方が生きている場合はいつまで有効な話なのか、と考えていた。
年齢で言えば仮にこのままだとしても自分の方が先に死ぬ。
蘇っていなければハリーが年をとり死んだ後、分霊箱の自分だけが生き残る。
当然の話だ。
せっかく得た予言だが、この最後の一文に関してはばかばかしい、と割り切っていた。
大体、ずっとマグルの中で生活していた分、予言だとか曖昧なものは用心するに越したことはない程度にしか考えていない。
予言の記憶を持ち帰って来たハリーはクリスマスには少し早いけど、と記憶を見せてくれた。
その時にもハリーに言われたのだ。
これっていつまでの話なんだろうと。
おそらくはハリーも同じことを考えたに違いない。
そのあとの事を思い出していたヴォルデモートはハリーが欲しがった闇の印をどこにつけるか……。
思い出していたハリーの体に印をどこにつけるか当てはめ、ここならば、と決める。
あとは死喰い人の一人でもあるあの男が……スネイプが冬休みと利用して凶行にいたらないかだけがヴォルデモートにとっての悩みどころであった。
例年通り家に帰るというハーマイオニーをロンと駅で見送ったハリーは食事の時間以外は寮におり、出かけるときは透明マントを着用していた。
そしてクリスマス。
ロンが寝るとハリーはそっとヴォルデモートのいる必要の部屋へと向かった。
生徒が少ない今、部屋が現れていても気がつく者はいない。
部屋に入るとヴォルデモートがちょうど鍋の後始末をしているところであった。
「あぁハリー。今瓶に移し終えたところだ。本によれば3日以上このまま寝かせることで成功率が上がるらしい」
「きれいな紫の薬だね……。ヴォルの薬は?」
駆け寄るハリーを抱きとめ、額に口づけるヴォルデモートにハリーはくすぐったそうに笑う。
ハリーの薬、と見せるヴォルデモートの手元で光るあやしい紫の光を放つ透明な薬をうっとりと見つめる。
まだ預かっておこうというヴォルデモートは瓶を小さなカバンに入れた。
「俺様の薬はすでに完成している。ただ、この薬には必要不可欠なものがあるのだ」
深緑色に光る瓶を見せるヴォルデモートにハリーは寄り添いながら首をかしげる。
「俺様の魔法薬は若返ると延命の力を持つ。だがそのためには薬を飲んだ後、誰か若い人間の生気が必要なのだ。まぁ言わば一時的にエナジーヴァンパイヤの様になり、相手の生命力をわけてもらうということだ」
「そうなんだ。じゃあ僕のエナギーわけてあげるよ」
ヴォルデモートの説明にさらりと答えるハリー。
抱き寄せるヴォルデモートの眼を見つめ、他の人からはいや、という。
「ハリー、お前ならばそう言ってくれると思っていた。だが、何もエナギーを奪うだけが方法ではない。こうして……」
ハリーを抱きかかえ、押し倒すと首筋に口づけをする。
「最も若いエナギー……こうしてハリーを抱いているときに得られるものを取るだけでもいいのだ」
「んっ……。そっか。それなら僕のエナジー吸い取って僕の寿命とかが縮まらずに済むんだね」
ヴォルデモートの愛撫を受けながら納得するハリーはいつ飲むの?と首をかしげ、降るような口づけに微笑む。