8:夏休みの終わり

 そうこうしているうちにまた夜が来て、また寝台に横になる。
「もっと早くにハリーにお願いしておけばよかった」
 料理も……もっと早くにやりたかった、と口をとがらせるリドルにハリーはじゃあまた来年、と笑いかける。またつながるとは限らない、この奇妙な体験。だがハリーにとっては間違いないだろうと妙な確信を抱いていた。そしてこういう時の直感は大体当たる物だった。

「来学期の教科書なんてもう目を通し終えたんだよね。さすがだなぁ……。僕には毎回さっぱりだったよ。特に魔法薬学なんて……」
「スラグホーンは……良く加点をくれるが、あいつのやり方はいつだってお気に入りを褒めてあげるという事で、そのことで生じる嫉妬や妬みなんか気にしてすらいない。おかげで割を食うのはいつだって俺だ」
 利用しやすいが、非常に迷惑でもある、とリドルはため息を零した。スラグ・クラブを思い出したハリーもまたその何とも言えない感情が理解できて、わかると頷いた。

「あの先生は……あー人脈大好きだから。そして、その人脈を持つ自分大好き、という感じだからね」

「……ハリーは知っているだろうけど、俺はパーセルマウスだ。夏前に気が付いて……パーセルマウスについて調べた。まだ確定していないが、スリザリンの創設者、サラザールの子孫の可能性がしてきたんだ」
 有名な人、有名になりえる人、それらを集めたあのうんざりするパーティーを浮かべるハリーにリドルは静かに切り出した。

 本当はロンと共に出かけた後、就寝時間を使って自分に関する本を読んだ。とはいえまだ隅から隅ではなく、出生についてを確認した。だからこそ知った情報ではあるが、ハリーが一瞬緊張した風に体をこわばらせ、リドルをじっと見つめる。

「今度スリザリンの紋章を見ながら練習はしてみるけど、特徴が一致するから間違いはないと思う。両親について、トロフィー室とかあちこち探したけど、何一つ見つけられなくて……。だから……仮説を立てたんだ」
 本物の蛇は森でもめったに見ない。ペットで買う人もいないのだから試したこともない。ただ、その一文を読んだとき、試しに持っていたスリザリンの紋章を見つめてから……開けと言った声が聞いた子ともない音だったことに確信を得た。

“ヴォルデモート卿”
 本に記載されていた通り名が……ここに来て間もなくにアナグラムで考えた名前と全く同じ名前。それが世界に知れ渡ったということが嬉しい。


 不愉快な出生の秘密も書かれていたが意固地になっていただけで、一番わかりやすい答えから目を離していた事を自覚せざるをえなかった。だがこれで事はよりスムーズに……より早くに進むことができるだろう。それに、リドルの姓が魔法界に無いこともこれで確定した。

「初めは……俺を産んで死んだ母が魔女なわけがないとリドルを探したが見つからなかった。そこで、父がいない理由を考えてみた。一つは母を捨てた場合。一つは戦争で徴兵されたとか、何かしらの要因で離れた場合。戦争で徴兵されていた場合、間違いなく魔法使いではない。魔法使いであった場合、母の記憶を消すなりしてしまえばよかったものをそのままにした。よほどのくずでない限り、魔法を使えたのは母だった可能性がでてきた」

 マグルの男が魔法を気味悪がって捨てた。その可能性は大いにあり得る。魔法使いの父とマグルの母を持つ半純血は同じ一年生にいたが、母か魔女で、という話は聞いたことがまだなかった。
 マグルの絵本なども出そうだ。魔女は大抵が悪いものと書かれていたが、魔法使いはアーサー伝説のマーリンをはじめに、たいていが良いものと書かれている。力を持つ女を許さない傾向なのだろう。垣間見える密かな男尊女卑の考えはリドルに嫌悪する感覚を植え付けた。

 力こそ正義。男だろうと女だろうと、力のないマグルは魔法使いより下にいるべきだ。力のない者は性別に問わず……いや、力のある女を見下す力のない男など、力のない女よりもよほど悪質で、価値のない存在だ。


 かつてよりも早い段階で、かつてよりも偏った思想に芽生えつつあるリドルにハリーは気が付かず、自分の知るヴォルデモートを思い出す。母リリーに対しては退けと言ったり、猶予を与えたりとほんの少しの優遇をしていたことから、かつてのリドルもそうだったのだろうか、と思考を巡らせる。

 父ではなく母ではないか、そう思うに至った理由がそういうことでるのならば。母親というものを特別視したのであれば……同じ母か魔女で父がマグルのスネイプにオリジナルの魔法を教えるなど、ある程度可愛がったのもなんとなくわかる気がする。

 いくら何でも……邪悪な蛇となる子供であっても、今は子供であり、害はない……はずだ。少しは破壊活動が緩和されて、あの極悪非道な闇の帝王にならなければいいのに、とハリーは考えながらリドルの頭を撫でた。

「家のことわかると良いね」
 知ってはいるが、知らないふりをするしかない、とハリーは濁し、そろそろ寝ないとと促す。すり、と猫が擦り寄る様なリドルはお休みハリーというと目を閉じ、静かな寝息を立て始めた。孤児院というのがどんなところなのか。ハーマイオニー曰く今は法律が改定されているとかで、リドルの孤児院のような劣悪な環境はないらしい。

 それに、身寄りのない子供の里子についても早い段階で行うらしく、リドルの様に成人まで孤児院にいるようなことは今はないという。そのため、伝え聞いた程度しかわからないが、魔法を知らないマグルしかいない孤児院で、力が有り余っているリドルは畏怖されていただろう。
 ここにいるときぐらいは年相応に扱ってあげたいな、とハリーも眼を閉じた。

 その寝顔を見つめる赤い目は外が白むまでずっと開かれ、ハリーという人物を目に焼き付けていることは、翌朝ハリーの目ざめと共にグレーの眼を開けたリドルに気が付くことはなかった。