6:意外な好み


 門のところから荷物を入れるロンに、お菓子のセットを受け取ったハリーは呆れて、荷物をトランクに詰めに行くリドルの背を見送る。闇の帝王にお菓子……。結構ミスマッチな気がするが、ダンブルドアもお菓子を食べていたし、人それぞれかな、とリドルの後を追って室内へと入っていった。
荷物をとりあえず寝室に持っていくリドルは購入した本を取り出し、古い新聞紙で表紙を覆う。これですぐにばれる心配はない、とトランクに隠しハリーの元へと戻った。

「ロンが買ったお菓子、食べてみるかい?」
 面白い効果がいっぱいあるんだ、と並べられた色とりどりのものをリドルはじっと見つめるが手を出さない。かなり警戒しているな、と笑うハリーはリドルが驚きそうなもの……そう考えてクリームのついたクッキーを渡した。

「ちょっと面白いやつ」
 さぁ、と勧められリドルはしぶしぶといった風にクッキーを口に含んだ。ボン、という音ともに羽が生え、驚くもすぐにそれは抜け落ちて元に戻る。

「なんだこれは」
 黄色と黒のまだら模様にも見える羽を手に取るリドルだが、服に異常がないことに興味深げに見つめる。まだ残っていた分を手に取り、鏡の前に来ると再び口に含んで様子を見る。カナリアにしては珍しい斑点模様のついた姿はトカゲなどの鱗を持った生物にも見え、リドルは羽が抜けてはもう一度食べ、その工程を観察していた。

「カナリア・クリームっていうんだ。面白いでしょこれ」
 そういってハリーが口に含むと鮮やかなグリーンの羽根を持ったカナリアが現れた。ジィ、と見つめるリドルは無言でもう一口と促し、ハリーもそれにのってもう一口食べる。羽根だらけだ、と杖を取り出すハリーだが、リドルは待て、とここに来て初めてともいえる様な、子供が片づけを止めるかのような、鋭く焦ったような声を出す。

「これは……とても面白いものだ。消さずに色だけ分けておいて欲しい」
 ずいぶんと気に入ったらしいリドルに言われ、ハリーはそう?と首をかしげると羽根を二つに分けて山にする。かの闇の帝王だって子供だったのだ。何か思いついたのかもしれない、とハリーは見守ることにして、次のを食べてみるかい?と袋を取り出した。


 一通り試したところでハリーはリドルの好みがなんとなくわかった。ゲーゲーヌガーなどの汚物についてははっきりとした嫌悪感を抱いているということ。ただ、効果には興味があるようで、匂いなどから成分を特定しようとしている。
 カナリア・クリームは特に気に入ったらしく、それだけは目の色が子供らしく輝いていた。鳴き蝙蝠やヒキガエル柄ミントなど、食べた後に作用するものは嫌いで、ペッパー・インプは観察するハリーの前でポリポリと食べては小さく火を出していることから結構気に入っているらしい。
 総じて、相手に使わせて目の見えないところで苦しめばいい、とつぶやいていた様なグッズ、クリームや黒コショウの様に自分に害はなく何かしらの変化が起きるものは好き。見えないところで何か変化が起きるものなどは嫌い。

 孤児院ということと時代的なことを考えると、衛生的なもので不快なものは嫌なんだろうな、と闇の帝王の好みに何だかららしいな、と一人頷く。屋敷しもべ妖精が嫌いだったのは……きっと見た目だろうな、と一緒に生活するうえで常に清潔に保っている風な様子から理解し……巨人は……と思ったところでヴォルデモートのそばにはいなかったことからヌガーなどと同じ分類か、と理解する。

 それにしても、クリームと胡椒は追加をお願いすべきかな、とハリーは小さく笑って部屋の中でも使える花火を眺めるリドルを見つめ続けた。こうしてみるとまだ12歳の少年なのだな、となんだが微笑まし気がする。

「魔法薬がもっと分かればあれの材料もわかるだろうに……」
「もしも、もしも来年も繋がったらちょっとずつ解明していけばいいよ」
 悔しい、という風なリドルにハリーは2年生だから仕方ないと首を振り、自分の力量不足が分かる少年に改めて畏怖のようなものを感じる。12歳でそこまで自分を分析できることと、足りない技術力との差を理解できるというのは恐ろしく頭の回転が速い証拠だ。

「そうだな。一応未来のものは持ってはいかない。……自分だけでこっそり食べるからクリームと胡椒だけは欲しい」
 味云々よりもただひたすらに効果が気に入ったらしいリドルにハリーは笑い、朝一で追加の梟を飛ばそうと決めた。ふいにリドルが壁を見つめ、まるで普通の子供の様に深々とため息を吐いた。


 追加のお菓子と教科書はほどなくして送られてきて、リドルは念のため持っていた硬貨をハリーに返すべく差し出した。それを見たハリーは少し考えてから持っていてほしい、とリドルのまだ小さい手に手を重ね、押し出す。

「羊皮紙とか、追加で欲しい時の資金に充てて」
「でも、こんな金を持っていたら……」
 梟便で調達できるはず、というハリーだがリドルは顔をしかめ、手に持ったガリオンとシックル、クヌートを見つめる。あぁ、そういうことか、とすぐにわかったハリーは一枚摘み上げるとこれは胸ポケットに、と差し入れる。

「一番高価なものは……そうだな、靴の中に仕込もう。すぐ使うわけでないのなら、トランクの奥に。こうやって分散させれば大丈夫。ゴブリンの作ったこれはね、呼び寄せ魔法が効かないようになっているから安心して」
 小さい頃こうやって隠していたことがあるんだ、と笑うハリーにリドルはなるほど、とにやりと笑う。大切なものや価値のある物は分散させて隠す。これでリスクを減らす。

 1学年のことは散々だったリドルは同じスリザリンの寮生にも警戒していた。マグル出身は皆貧しくて、魔法使いの家でも貴族以外は皆荒んでいる。食事が満足でない孤児院出身のリドルは小柄で、弱弱しかったからか標的にされやすかった。

 だが、とリドルはこの一か月で急成長を遂げた自分に満足だった。ハリーの作る料理はどれも簡単なものだったが、腹いっぱいになるまで食べることができ、十分な睡眠もとれた。そのために後れを取り戻すかの如く、痩せてはいるものの栄養の足りない体ではないしっかりとした体になった。

 刺激的な日々のおかげで退屈することはなく、娯楽としていいものも手に入れた。まだ欲しいものはあるが、今回はまだ無理だと諦め、どうかした?と言うハリーを見つめる。50年という年月が恨めしいが、今はしかたがない。彼が生まれ、成長するころには自分は大人で、いつでも彼を見つけることができるはずだ。