4:異なる時代の共通点

 次の日、ジトっと見つめる圧にハリーが目を覚ますと灰色の眼がハリーを見降ろしている。色が違うけど、やっぱり既視感あるなーと苦笑いするハリーはおはよう、と伸びをしつつ起き上がった。

「いい歳した大人だというのに、朝弱いのか?」
「いや、そういうわけじゃ……え?早くない?」
 すっかり起きて貰った服を着たリドルの呆れた声に反論しかけ、置いてある時計を見たハリーは目をしばたたかせた。針は6時半を刺している。

「昨日はもう少し寝ていたよね、君」
 昨日はご飯作ったあとに来たはず、と起きたての頭を振るハリーにリドルは少し考えてカレンダーを見る。だがこの家にあるカレンダーは全く役には立っていない。

「あ、えーっと……アクシオ、カレンダー」
 まだ積まれていた荷物の中からハリーの手元に飛んで来たカレンダーをハリーが手に取り、1938年の7月に合わせるとリドルへと渡す。年代を正確に当てられ、眉間にしわを寄せるリドルだが、今日の日付を確認し大きく舌打ちをする。

「昨日は休日だ」
 それほど遅いわけでもないが、それでも寝ていたことは事実で、平日だからとつい早起きしたことの言い訳なのか、それとも昨日やや寝坊……でもないのだが、通常よりも遅く起きた事についての言い訳なのか……。
 いまいち読めない顔のリドルに施設だといろいろあるのかな、とハリーは言及せず、ちょっと待っていてと朝の支度をし、ハーマイオニーがおすすめしてくれたシリアルを取り出した。

「まだその会社あるのか」
 素直に椅子に座るリドルはその箱を見て、ぼそりとつぶやく。

「そうなの?君の年代に出た会社なのかな。あまり気にしたことないや。僕の時代だと朝の定番の一つだね。牛乳も冷蔵庫に何本か入れてあるから、気にせず使っちゃっていいよ」
 これは友達おすすめのシリアルだから楽しみ、と楽しそうなハリーをリドルはまたどこか戸惑うように見つめ、空のボウルに好きなだけ入れて牛乳も入れていく。麦のほんのりと甘い味付けにリドルも気に入ったのかがつがつと食べ始めた。


「少なくとも、卒業まではこれを自由に食べることはできない、と考えるべきか」
 あっという間に平らげたリドルの酷く残念そうな声に、彼も大分苦労していたんだろうな、とハリーは思い当たり……大分軽くなった箱にストック用意しなきゃ、と10代の少年の食欲に驚く。もし、この期間の介入が後に影響を及ぼすとして……さらにデカくなるんじゃないだろうか、と自分より背の高かったヴォルデモートを思い浮かべた。
 いや一回リセットはいるはずだから……と考えて……満腹そうな、どこか嬉しそうな顔に、まいっか、と紅茶を淹れる。

「好きなものとかあったら何でも言ってよ。そりゃ、フランチのフルコースとか言われたら頭を悩ませるかもだけど、可能な範囲で頑張るからさ」
 食器を片付けたハリーは課題を広げるリドルにそういって足りないものなどを追記した羊皮紙と昨日封した封筒をまとめた。なんだ、と振り向くリドルは少し考えるようにして、ローストビーフ、と短く答える。

「オーケー。硬くない、柔らかいやつね」
「南国のフルーツ、見たことのないフルーツ。お前の時代で食べられるもの」
 昔は焼きすぎて硬かったと聞いたことがある、というハリーは続けられた言葉に思わず顔をあげ、まじまじとリドルを見つめた。不快気なリドルにいやなんでもない、と微笑みその要望も書いていく。

 ヴォルデモートは闇の魔術に傾倒するあまり、生物が生物である証である飲食と睡眠が必要ではなくなっていた。まだ若い彼が当たり前にそれを持っていることが新鮮で、不思議な気分だ。

 制服の為の採寸を行い、それも書いて元々あった手紙と共に束ねるとハリーは立ちあがった。リドルも立ち上がると玄関から出ようとしたハリーの後を付いてくる。

「庭の状態が気になるのと、お前の時代が少し見えるのではないかと思っているだけだ」
 文句はあるまい、とむすっとした顔のリドルにハリーは肩をすくめて見せ、一緒に玄関ホールを抜けた。明るい庭は放置されていた分荒れていて、どこかそっけない。

「もともとこの場所は人気のない場所だったからね。あまり時代に関連する情報はないと思うよ」
 この通り、と周囲に家は見えず、あまりにもさっぱりしている。その風景にだろうな、とリドルはため息を吐き、ハリーが越えられないといった門を見つめた。

「君一人だと元の世界にいけたという事は反対もあるべきだと思うのだけど……え?ちょっと危ないよ!」
 待機していたらしい梟がハリーを見つめ、封筒が括りつけられるのをじっと待つ。その間に門に手をかけたリドルがその境界に近づいた。え、と驚くハリーだがリドルには何も起きず、そのまま数歩離れてしまう。じゃあとハリーも続くが門を少し出たところで壁にぶつかり、それ以上は進めなくなる。

「なんで?」
「そちらはどうしてかわからないが、このブレスレットがキーになっているらしい」
 何か異常がないか、そう自分を確認するリドルはあの意味不明のブレスレットを見つめ、おそらくは、という。よく観察してみればブレスレットの一部が光り、徐々にそれが減っているようにも見える。

「それじゃあ……わざわざ採寸しなくてもよかったってことかな」
「どれほど外に出られるのか。期限が切れたらどうなるのか。まったくわからないのにのこのこと出るつもりはない」
 戻ってきたリドルはブレスレットの光が再び戻ったことを確認し、面白いな、とつぶやいた。慌てて文面を追加するハリーが再び梟に封筒を括りつけると、今度こそ仲間の元へと飛ばず。

「さて、課題を片付けるとしよう」
 すたすたと屋内に戻るリドルにハリーはなんなんだろう、と首をかしげるしかない。


 かりかりと魔法史をまとめるリドルを見つめるハリーだが、なんとなく既視感を覚え……あ、と声を上げた。

「僕も2学年前にこれ書いたよ。そうか、ビンズ先生だ。そりゃそうか」
 とても古い記録でも彼がいたことが確認できていたのだから、当然ヴォルデモートも生徒だ。あの先生ほんと適当だなぁと苦笑いするハリーにリドルはうんざりした顔をし、なぜ許されているのかわからないと首を振った。

「教えていることが古臭すぎる。グリンデルバルドらが何を行ったのか。近代における魔法使いの歴史は?その様子では、こいつは今後も役に立つ授業は行わないようだな」
 知りたいことは図書室で調べるしかない、とブツブツと文句を言うリドルにハリーは笑い、ついうっかりその頭を撫でた。途端に不機嫌になるリドルだが、軽く手を振り払うだけで何も言わない。

「ごめんごめん、ついうっかり。いいなぁ君の髪の毛。僕はこんなにくせっけだから毎日ぼうぼうで……」
 ゆくゆくは自ら毛のない頭になるのだから、今ぐらいはいいだろう、とハリーはじっとリドルを見つめた。黙っていれば、そう黙っていれば彼はかわいいというのではなく、かっこいいという枠を超え、ただ美形だという風に評されるだろう。いわゆるクールビューティーだ。

 この系統でハリーが思い当たるのはビルやセドリックといったイケメン達で、非常に残念ながら見た目ではなく、元の骨格や各パーツの位置などからやはりヴォルデモートが思い当たる。

「俺にはお前と違って愛嬌と呼ばれるようなものはないからな」
 まるで鳥の巣だ、とリドルは鼻先で笑う。え、今愛嬌って言ったのこの子、と目が点になるハリーだったが、誰が鳥の巣だとリドルの頭をぐしゃぐしゃに掻き乱した。なんだこの!と声を上げるリドルが反撃し、二人そろって爆発した頭で笑いあう。こうしてみればまだ年相応で、子供らしいとハリーは杖を振った。