2:始まりの朝

 見たことのない天井と、誰も声をかけてきたりすることもない朝にぼーっとし……漂ってきた朝食の香りに体を起こす。杖を握り寝室を出れば、扉の隣に昨日着ていた服が少し雑にたたまれている。魔法を使ったのか、きれいにされている服は相変わらずのぼろで、ハリーのシャツを脱ぎ、それに腕を通すとごわごわとしていてため息がこぼれる。

「おはよう、もうすぐできるからそこに座ってって。あ、卵何個食べるかい?パンは自分で好きなだけ切って」
 徹夜明けだったから寝過ごした-とバタバタ動くハリーに何なんだこいつは、と警戒するのもバカバカしくなり用意されているパンにナイフを入れ、自分の好きな分だけ切り取った。卵の数を聞いておいて勝手に皿に乗せるハリーは杖を振って紅茶を入れ、リドルに渡す。

「最初の報告を受けた梟が起こしてくれてね。とりあえず君の服と寝間着と、タオルと……あっ!僕の着替え書き忘れていた気がする!ハーマイオニー、ジニー……頼んだ!!」
 もろもろ足りないものを頼んだから、そのうち届くよ、というハリーにリドルは何も言わない。もくもくと食事をとっているとハリーはぼさぼさの頭のままパンにかじりつくのをじっと観察するように見つめる。

「あ、そうそう。君が来た時の扉、また開くようになったみたいだから、戻れるかどうか見てみて。僕は家から出られないことは確認済みだから……解けるのを待つけど、君は孤児院で騒ぎになってしまうだろうし……。もちろんここにいていいけれど、君を拘束するわけにはいかないからね。好きに選んでいいよ」
 勝手に閉まらないよう、抑えてあるから大丈夫、とまるで蛙チョコにいいカードが入っていたんだ、とでもいうかのような軽い言葉にリドルはハッと振り向き、閉まったままの扉が少し開いていることに気が付いた。
 戻る、というのも迷うリドルは腕についたブレスレットに触れ、そうだと顔を上げた。

「これ、いったいなんだかわかるか?」
「あぁ、君にもついていたんだ。じゃあどうなるんだろう。君が元の時代に戻ったらここも戻るのかな。うーんわからないなぁ」
 これ、と見せるリドルにハリーも僕にもついているよ、と昨日は袖で隠れていた腕を見せる。一体どういうことだ、と考えるリドルだが、まだ2学年前。どれだけ勉強していようとも、魔法使いになって2年目ではまだまだ知識が足りない。

「いったん部屋に戻る」
 この情けない男と共にいてもしょうがない、と心の中で結論付けたリドルは食べた食器を片付けようとして、ハリーが振った杖でその必要もなくなる。持ち物は杖だけだったため、くるりと背を向けると何も言わず、自室に続く扉を開けて去っていった。


 あの家にいたせいか、一層みすぼらしく見える狭い個室にため息がこぼれ、いったん外の様子をと部屋を出る。少し会話して分かったのは、自分が一日いなかったことは誰も気が付いていない様子だという事だ。
 職員は心底嫌いだったため、一昨日痛みつけた子供を見つけて昨日一日俺がいないことをあいつらは何か言っていたか、と言えば知らないよ!と震えながら答え……君いなかったのかい?と首を傾げられた。
 そういえば昨日は一日君を見ていない気がする、という言葉に魔法のせいか、とリドルはすぐに納得し、まずい昼を食べ……戻ってきた部屋で再びクローゼットの扉から光が漏れていることに気が付いた。

 もしや、と扉を開ければソファーで眠っているらしいハリーが見え、まだつながっていると口角を上げる。ほとんど中身を取り出していなかったトランクを掴み、クローゼットの中……ハリーのいる世界に足を踏み入れた。

 ソファーで眠っている姿が慣れている風で、昨夜もここで寝たのか、とため息がこぼれる。よほど疲れていたのか、ぐっすり眠っている男は眼鏡をはずして無防備に転がっていた。
 服装が違う事と、部屋の隅に積んである箱から梟便が無事届いたという事なのだろう。庭に出ていないが、もしかすると庭に出るとハリーの世界になっているのかもしれない。
 
 この屋敷の中は自分のいる30年代で、この男が何年かはわからないが、未来から来ているのであれば……屋敷がぼろぼろで存在し、中を探索できるほどなのであればおおよそではあるが100年は経っていないだろう。短くて50年か……。

 それにしても無防備過ぎないか、とハリーの傍らに立ち、寝顔を見下ろす。年齢は……闇払いという事からは卒業はしているのだろう。こんな場所を一人で見に来ているが、梟一つで荷物を届けられる……という事はそれなりの立場なのか。

 ハリーについて推測を立てるリドルは情報収集をすべきだ、とそう判断してローテーブルに持ってきた課題を広げた。

 ハリーが目を覚ましたのは魔法薬学の課題を終えたところで、傍らで課題を片付けているリドルに少し驚き、興味深げにリドルの手元をのぞき込んだ。

「へぇ……たしか……スラグホーン先生だよね。っていうか終わるの早い!え、今年の夏の課題だよね。もう一つ終わったの?」
 まとめ終わっている羊皮紙に思わず声を上げるハリーにリドルは知っているか、と顔を上げる。思ったより近くで覗き込まれていて、予想していなかったリドルはふいっ、と顔をそらした。

「あんたの時代でも教員だったのか」
「うーん……僕は一年だけね。ある事情で魔法薬学の教授が別の教科を担当しなきゃいけない時に、ダンブルドア校長の要請で復帰したんだ。」
 まだやっていたのか、と尋ねるリドルにハリーが答えると、露骨に嫌な顔をし、ダンブルドアが校長?と顔をしかめる。うっかり言ってしまったとばかりに、あーと考えるハリーだが聞かれてしまった以上は仕方がない。君の時代の10年位後の話だよ、と現在変身学を担当しているであろう、ダンブルドアの未来を少しこぼす。

「そうか。あぁそれと一応共有しておいてやる。元の世界では俺は一日いなかったはずだが、誰も気にしていなかった。おそらくは何かしらの魔法か、認識がゆがめられるようだ。それと、あんたのシャツを持って行ってしまったのだが、持ち込みは可能だった」
 だからこれを持ってきた、とトランクを示すリドルにハリーはなるほどなーと頷く。