目を覚ましたハリーははっと起き上ると額の痛みをこらえながら辺りを見回した。
仕切りのカーテンが開けられた隣のベットに横たわる少年の姿を見つけてほっと息を吐いた。
「目が覚めたようじゃなハリー。ヴォルも時期に目を覚ますじゃろう。なにせトロールを倒したんじゃ。よほど疲れたんじゃろう」
 聞こえた声に振り向いたハリーはダンブルドアがいることに気が付き、はっと思い出す。
「せっ先生!クィレル先生が石を!」
「ハリー落ち着くんじゃ。まず、君たちが石を守ったのは3日前じゃ。ハーマイオニー=グレンジャーやロン=ウィズリーが君が目を覚ましたと聞いたら喜ぶじゃろう」
 起き上がろうとしたハリーを落ち着かせるダンブルドアはわかっておると、そうハリーに伝えた。
3日も眠っていたことにハリーは驚き、寝返りを打っていないように見えるヴォルも同じように眠っていたのかと胸元で揺れるペンダントを握る。
「先生あの石は……」
「あの石はもう壊してしまった」
 ポケットに履いていたはず石の感触がないことにハリーはあの石がどうなったのかとダンブルドアに問う。
 もう壊してしまったと言うダンブルドアに驚くハリーはダンブルドアの友人であるニコラス=フラメルはどうするのかと問おうとして、と隣で聞こえたうめき声にハッと振り向いた。
「ヴォル!」
「いっ……ここは医務室……ハリー!」
 頭を押さえて起き上がるヴォルは自分がいる場所を確認し、はっとハリーの姿を探して自分を見る姿を視界に収める。
 ほっと息を吐くヴォルはいつものようにハリーに抱きつこうとして顔をこわばらせて両手を見つめる。
 
 その姿にハリーはもしかしてと同じように抱きつこうとして手を握りしめた。
「どうやら、以前の名を思い出したようじゃな」
「あの夜……俺は……俺様は……ポッター家を……。ハリーの両親を……。今はそれしか思い出せない。けれども、それで充分だ」
 うなだれるヴォルに記憶を取り戻したのかと言うダンブルドア。かつて……ハリーの両親を殺した張本人であることを思い出したヴォルは小さい頃、どうしてハリーを嫌っていたのか……その理由を知り今までの様に抱きつく資格はないと視線を落とした。
「僕……知ってたよ。ヴォルがヴォルデモートだってこと」
 ハリーの言葉にはっとヴォルは顔を上げて、少しさみしげな顔のハリーを見つめる。
 
「だって、オリンバンダーさんがヴォルを見て驚いてたし……。それに名前がとってもよく似てて……ハグリッドが言いにくそうで……。スネイプ……先生がマクゴナガル先生と話しているのを聞いて……。だからヴォル知ってたよ。それに……僕言ったでしょ。ヴォルが何であっても僕は……僕が知っているヴォルはヴォル=セルパンだよって」
 目を見開くヴォルにハリーはずっと一年間考えて考えて……わかったことを話す。
最初わかった時には戸惑いもあったが、それでもハリーはずっとヴォルのそばにいた。
「パパやママを……それがヴォルだってわかっても、どうしてもいつものヴォルしか思い浮かばなくて……。怖かったのはヴォルが僕から離れるんじゃないかってこと。僕にとってヴォルはヴォルだけど、ヴォルはそうじゃなかったらどうしようって」
 それが一番怖いと言うハリーにヴォルは首を振ると俺は俺だ、と手をのばした。
 
「だめっ!」
 あと少しでハリーに触れるというところで、ハリーは何かを恐れたように顔を恐怖に染めて拒絶の言葉をする。


 やっぱりと、苦痛の表情を浮かべるヴォルにハリーはどうすればと涙を流す。
「大丈夫じゃよハリー。ヴォルデモートではなく、ヴォル=セルパンならば絶対にけがはしない」
 じっと二人のやり取りを見ていたダンブルドアが口を開き、いつものにこやかな顔で大丈夫じゃよ、と促す。
 訳がわからないヴォルは眉を寄せ、首をかしげると、恐る恐る触れるハリーの手を見つめた。
まるで壊れ物に触れるかのようなハリーの手が震えていることに気が付き、じっと抱きつきたい衝動を抑える。
「ヴォル……痛くない?」
「大丈夫だよハリー。痛くない」
 確かめるように触れるハリーにそう告げると、ハリーは何もいわずヴォルに抱きついた。
「よかった……。よかった。記憶が戻ったヴォルに触れられなかったらどうしようって……。クィレル先生みたいになったらどうしようって……」
 震えながらヴォルに抱きつくハリーをヴォルは抱き返すと、ニコニコとしたダンブルドアに視線を移した。
 昔っからこの爺は苦手だと、ヴォルは軽く睨むようにダンブルドアを見る。
「ハリー……あの後何が起きたのか、俺に教えてくれないか?」
 抱きつくハリーの髪をなでるヴォルはとにかく何があったのか……過去の自分の魂の破片が何をしたのかとハリーの背中を叩いて落ち着かせる。
 
 ヴォルと別れてからスネイプの守りをハーマイオニーが解いたこと、一人でクィレルと、あのターバンの下から出てきた冠と後頭部に張り付いたヴォルデモートの顔のこと……。
それを伝えるとヴォルは先ほどの魂のかけらと会話した内容を思い出す。
「レイブンクローの髪飾り……。どこだったかこの城に隠していたのをクィレルが見つけたというわけか」
「魂のかけらって……なに?」
 ほかにもあったはずだが、思い出せるのはすでに壊れたそれだけだ。
流石にいきなり赤ん坊になったことでの弊害か、記憶の方はかなりあいまいだ。
「俺もまだ完ぺきに思い出したわけではないけど……。自分の魂の一部を他のものに移して保存する。ホークラックスというものをいくつか作って隠していたんだ。数は……まだ思い出せないな。複数あったはずだからそのうちのひとつだ。以前の俺がほとんどそのまま入った道具だ」
「やはりホークラックスは複数あるんじゃな。いくつかあると言う話は聞いておったが……」
 名前と効果……それ以外の情報を思い出せないヴォルにダンブルドアはやはりあったんじゃなという。
 
 
 続きを促すヴォルにハリーは鏡の前に連れて行かれたことと、その鏡に映るヴォルが鏡の自分に石を渡して、それを自分のポケットに入れたと話すとなぜかダンブルドアは嬉しそうに頷いた。
「あれはの、使いたいと願うものが見れば使っている姿が映り、そうでないものがの見れば石が手に入ると言うしかけじゃ。鏡は石を欲していない者が最も信頼し、深い思いを寄せる相手の姿を借りて石を渡すかを決める。やはりヴォル=セルパンとなった、ヴォルデモートだったものを君とともに成長できるようにしたことは間違いではなかったようじゃな」
 にこにこと告げるダンブルドアにこの狸め、と睨むヴォルはふと鏡に映ってた自分の話を思い出し、顔を真っ赤にしているハリーを見下ろす。
 最も信頼し、深い思いを寄せる相手の姿を借りて……。
それってつまり……と顔が同じように赤らむヴォルはハリーに見られないよう、ハリーを胸に抱きしめた。
「でっでもそれで石を手に入れたんだな。そういえば……クィレルは?逃げたのか?」
「うぅん……ちがう……。クィレルは……クィレルは僕に呪いをかけた。けど、ヴォルのお守りのおかげで呪いは打ち砕かれて、次に首を絞めていた。そしたら急にクィレルが叫んで……手が焼けただれて……。ヴォルデモートが何かする前にって無我夢中でクィレルの顔を両手でつかんだ……。鋭い叫び声と、頭痛で気が遠くなるなか、叫んでたクィレルが何も言わなくなって……」
「クィレルは残念なことにわしが駆けつけてきたときにはすでに事切れておった。その隣で倒れている君を見て遅かったかと、肝を冷やしたんじゃ」
 クィレルがどうなったのか、その顛末を語るハリーは声を震わせ、ヴォルにすがりつく。
 かつて数々の叫びや怒号……憎しみの声を聞いてきたヴォルは脳裏に一瞬よぎるそれらを聞いた気がして、ハリーを抱きしめる。
 だからさっき触られることに、触れることにあんなにも戸惑い、拒絶したのかと、自分は大丈夫だという思いを込めてきつく抱きしめた。
 
 「遅かったんじゃないかって……?十分遅いだろう!ダンブルドア!お前がのんきにしていたせいでハリーはクィレルのせいで傷ついたんだ!奴が生きている間に来て貴様がとどめを刺せばよかったものを!」
 ふつふつと沸く怒りにヴォルはかつての怒りを思い出しつつダンブルドアに今の言葉とかつての自分との言葉が混ざり合いながら怒鳴る。
 ハリーは杖越しではなく、自分の手の中で消える命に脅えたのだと、掌をぎゅっと握るハリーの手を掴む。
 驚くハリーの掌に口づけ、細い指先にも口づけると、もう一度ハリーを抱きしめる。
「ハリーはハリーだ。過ぎたことは変えることはできないけど、ハリーの手はいつだってきれいなままだ。もう二度とハリーが自分の手をそんな顔で見つめることがないよう、俺が守るから」
 ぎゅっと力を込めるとハリーは小さく頷いた。
かつて残虐非道と言われていた男がこうも変わるものかと、身を寄せ合う二人にダンブルドアは満足げに頷き、すまなかったの、と肩を振るせるハリーの背に向かって伝える。
 
「でもどうしてクィレルは僕に触れられなかったんでしょうか。ヴォルには触れられるのに……」
「おぉ、それは君の母上……リリーがハリーにかけた古くとても強力な魔法のおかげじゃ。リリーの愛情が目には見えない印となってハリーを守っておる。ヴォルデモートの様に憎しみや欲望にとらわれたものが触れればその愛の力に耐えられず苦痛でしかないのじゃ。クィレルは心の奥からその闇の力に染まっておったようじゃな。そのうえヴォルデモートの魂を憑依しておったんじゃ。リリーの息子を愛するその魔法に彼は耐えられなかったのじゃよ。ハリーがヴォルに触れられるのは一度心身ともに赤ん坊になったことでたまっていた闇が消えておったからじゃ。ハリーを想う気持ちがある限りヴォル=セルパンの心の奥底までは闇には染まらんじゃろう。そして心の奥底まで染まらないと言うことはヴォルいがヴォル=セルパンである限りその愛の魔法が彼に対しては排除しないと言うことじゃ」
 どうしてクィレルが苦しみ、命を落としたのかを問うハリーにダンブルドアはとても古い魔法でヴォルデモートが使えない強力な守りの呪文という。