晴天の空の下
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「ちょっとどいて…あわわ!」
大きなかごを抱えた青年は突然開いた扉に驚き、中から出てきた影にそのままぶつかる。
「朝から騒々しい…。」
「もう昼だよ!もう少しは洗濯手伝ってよね。」
ぶつかった腕をさする長身の男は散らかった洗濯物を拾い集める青年を見下ろし、ため息を零す。
洗濯物を回収した青年は緑色の瞳を吊り上げ、時計を示して見せた。
「まだ11時だ。」
「もう11時!なんで僕の方が先に起きてるのさ…。」
ぶつぶつと文句を言う青年は抱きしめようとする腕をかいくぐり、庭先に面したサンルームへと向かう。
やれやれとその小柄な背を追う男は洗濯ものを広げる青年を後ろから抱きしめ、暴れる前に首筋に口づけを落とす。
「ちょっと!洗濯やらないと…。」
「最後は半分寝ていたからな。反応が薄かった。」
ぎくりと体をこわばらせる青年は背後の男の愛撫に力が抜けて洗濯物が足元に落ちて丸まった。
遅い昼を取る青年…ハリーはむすっと顔をしかめるが、めったに作ってくれない食事につい気持ちが絆されそうになる。
「まったくもう…。」
いつの間にかきちんと干された洗濯。目が覚めたら用意されていた昼食。
普段からしてくれたらいいのにと思うが、変にへそを曲げられると後が恐ろしい。
それが目の前の男…ヴォルデモートだ。
ちらりと魔法のかかったカレンダーを見れば明日は忘れもしない日であることが分かる。
「もう一年になるんだね。」
かつて生き残った男の子…英雄と言われてきた光の存在と、誰もが恐れる闇の帝王が一緒に住むようになってから1年。
「やっと1年といったところだ。」
ふんと鼻を鳴らすヴォルデモートは目を細めて機嫌はよくなっているのに必死に不機嫌を装う青年を見つめる。
ふとそこへハリーの頭上に白い梟が舞い降り、マグル式の生活には懐かしい羊皮紙が括り付けられていた。
「あ、ヘドウィグおかえり。ダンブルドア先生の返事持ってきてくれたんだね。」
大事な相棒である梟をねぎらうハリーは立ち上がると歩きながら手紙を開き、ソファーへと腰を下ろす。
その隣にごく自然に座るヴォルデモートは腰に手を回し、眉間にしわを寄せつつ手紙をのぞき込んだ。
簡単な挨拶から始まる手紙は懐かしく、ハリーは嬉しそうに口元を緩めた。
『ハリー、トム元気かな?あの大戦から1年。ようやく残党も片付き、魔法界は平和な日常へ戻りつつある。相談のあったマグルの仕事じゃが、わしが許可をしよう。またいつでもこちらに来るのじゃぞ。』
「やった!これで仕事ができる!!外に出られるよ!」
読み終わったハリーはやったと喜び、むすっとしたヴォルデモートを振り向く。
この一年、互いに持っていた資産を削りながら(とはいえ対して減ってはいないのだが)の生活で外には出ていなかった。
いい加減人のいる場所に行きたいのと、隙あらばベッドに引きずり込まれる…そんな不健康な生活をどうにかしなければと前々から相談を出していたのだった。
「いまさら働かなくともいいだろうが。」
「こんな不健康な生活ばかりはだめだよ!魔法界には戻れないし…。だいたい、魔法が使えなくなったのはヴォルが変な魔法をかけたのが原因じゃないか。」
すっかり隠遁生活に慣れてしまったヴォルデモートは面倒だとため息をつき、ハリーの細い腰を抱き寄せる。
慌てるハリーを腕の中に閉じ込め、こめかみに口づけると、鳥のような痣の入った左手で、同じ模様が刻まれたハリーの右手を取る。
「何を言うハリー。いい加減嘘でも戦うのは嫌だと、魔法界に居られないならマグルの世界で共に死ぬまで生きたいと、そう願ったではないか。」
手の甲を意味ありげに撫で、指を絡める。
そうだけど、と言いよどむハリーは顔を赤らめヴォルデモートの手を握り返す。
「でっでも、ヴォルが死喰い人切り離してでも僕を選んでくれたなんて…。」
ちらりと机に置かれた魔法界の新聞に目を向ければ、”英雄と闇の帝王の死から1年”と大きな字で書かれている。
突然襲ってきた闇の勢力に不死鳥の騎士団らは交戦し、ハリーとヴォルデモートは一騎打ちとなり、そしてヴォルデモートの放った呪文とハリーの放った呪文が兄弟杖で繋がり…杖の消滅とともに倒れた。
蒼白い炎が二人の姿を覆い隠し、ダンブルドアの手によって二人は”遺体”として回収された。
生きていることを知っているのは長年の付き合いである親友達と、ダンブルドアと二人の寮監…その5人だけだ。
闇の陣営にはもちろんのこと、シリウス達にも伝えられていない。
さらに言えば、寮監二人にはハリーは記憶と魔力を失い、ただのハリーになったことが伝えられている。
二人がただ静かに共に過ごしたいこと、そう願ったことにダンブルドアが一働きしてくれたということだ。
分霊箱を集め、魂を戻したことで少しは人間らしい顔になったヴォルデモートを以前の彼と結びつけるのは生きていると知らない限りわからないだろう。
そういったこともあり、二人が暮らす庭付きの家には来客はほとんどない。
「働くのは結構だが、ほどほどにするのだぞ。」
「え?なんで?」
大切なものが手元にあるのであれば不服はないと、愛蛇とハリーだけがいる生活に身を置くヴォルデモートはハリーの頭に口づけを落とし、体重を痩躯に押し付ける。
「え!?ちょっとどういうこと!?」
押し倒されたハリーはのしかかるヴォルデモートの顔を赤く染め、もち上げられ口づけを落とされる右手を見つめる。
「あまり疲れたハリーを組み敷くのはもったいない。ハリーお前の休日がなくなってもいいというのであれば俺様は問題外だがな。」
生きがいいのが一番だとハリーの喉元を食むヴォルデモートは、ほんの数時間前に赤く染め上げ堪能した白い柔肌をまた染めていく。
「だっダメだってば!んっ…や…そこっ…ぁっ!」
「魔法が使えなくともやすやすと組み敷くことができるのは変わらないようだな。」
「もともと魔法なんて…んっ!ぁっ、つかって…ぁ、ぁん。」
飽きるはずもない、と口角を上げるヴォルデモートは知り尽くしているハリーの弱点を愛撫し、蕩けさせていく。
「もっとも、俺様が働いてやってもいいのだがな。その代わり、家事等はハリーがやるのだぞ。」
赤く染めあがった肌をなで、喘ぎつかれたように大きく胸を上下させるハリーを軽く弄ぶように、まだ燻ぶっている快楽の火種が消えないよう愛撫を繰り返す。
少し怒りながらも無限に続くような快楽に体をふるわせるハリーは、聞こえた言葉に顔を上げた。
「ヴォ、ヴォルが働くの?」
「もともと営業職にはついていたことがあるからな。大体俺様の口がうまいことはハリーも知っているだろう。」
赤く染まった胸飾りを爪先で弄ぶヴォルデモートにあえぐハリーは思わずまじまじとヴォルデモートを見つめてしまう。
確かにそういった仕事についていたとは聞いたが、働いている姿が想像できない。
「少し魔法薬を飲む必要があるがな。あまりにもまずいものを出せばその時は…わかっているな?」
「でっでも、この1年でできるようにはなったけど簡単なものだし…。ヴォルを満足させる料理なんて…。んっ」
慌てるハリーへの愛撫の力を強め、ぺろりと胸飾りを舐めあげる。
この1年で大体のハリーの実力はわかっている。
毎日ハリーが料理をして迎える。
考えただけでも楽しみだ、とハリーの口を甘くふさいだ。
幾日が過ぎ…
「それじゃあヴォル、気を付けて行ってらっしゃい。」
「あぁ。昨日のように焦がしたら…どうなるかわかっているだろう?俺様としては失敗してくれた方が楽しみができるのだがな。」
首筋に赤い印を散らされたハリーはまだ赤らむ肌を隠し、ヴォルデモートを見送る。
ニヤリと笑って告げられた言葉に顔を真っ赤に染めたハリーだが、口を開く前にふさがれ、腰砕けになっている間にヴォルデモートは家を出ていった。
「昨日だってヴォルが予定より早く帰ってきたからじゃんか…。」
そっと帰ってきたヴォルデモートに驚き、危ないと反論する唇を長くふさがれて…まんまと策略にはまって焦がしてしまった。ほんと酷い悪党だと扉に向かって舌を出し、ため息をついているナギニと、ヘドウィグのいるリビングへと戻る。
全くあの精力はどこからくるんだか、とシャワーを浴びたハリーは今日は失敗しないようにしなきゃとほほをたたき…ヴォルデモートの服と自分の服がサンルームに並ぶのを見上げ、今日はいい天気だとほほ笑んだ。
~fin
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