キャプテンの選択
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雲行きが怪しい、と箒の上から黒い雲を見るとオリバーはこまったな、と頭をかいた。
つい先日、事前に許可をもらっていたとはいえ、飛ばしたスニッチが急な悪天候のせいで見つけにくくなり…シーカーのハリーがずぶぬれで見つけてなんとか事なきを得たが、長時間濡れたせいか夕食頃に熱を出して保健室に行ってしまい…マクゴナガル先生に怒られ、深く反省したばかりだ。
クィディッチについてはいつもついつい熱くなり、悪天候でも練習はしていたのだが、あの時はちょっと風向きがあやしいなとは思いつつ、気にはしていなかった。
けれども、スニッチを使った練習をしたいと申請したのだから天候をよく確認したうえでなければ危うくスニッチが行方不明になるところだったこともあり、それが見つからなければ戻れないハリーに重圧がかかることもある。
熱くなるの性分だとしても少しは変えないと、マクゴナガル先生に練習を止められてしまうかもしれない。
勝ちたい気持ちは一緒だからきっと長期間ではないかもしれないが、練習にのめり込み過ぎて変身術の講義中に作戦図を描いていたことがばれたときは大目玉をくらったこともあり、そこら辺はとてもシビアな先生だ。
ハリーはそのまま土日を過ごしたらしく、月曜日の朝小さく欠伸を噛み殺すハリーを見つけて、謝った。
ハリーは大丈夫だといってはいたけど、マクゴナガル先生に言われたとおり、キャプテンとしてしっかりしなければならない。
スニッチを使った練習ではないが、荒れる前に終わったほうがいいかもしれない。
でも、あと少しぐらいなら大丈夫だろう。
「フレッド、ジョージ!次ふざけたら承知しないぞ!」
吹き付ける風に慌てて練習の中止を言い渡して、ずぶぬれになりながら更衣室へと戻る。
またやってしまった…。
この前と違って、降り始めからすぐ声をかけて、ちらかったボールを回収して、クァッフルを探して…と前回よりは早いはずだ。
「ハリー、体調が戻ったばかりだし、シャワーを浴びて温まってから戻ろうか。」
チームの中でも小柄で細いハリーはとても寒そうに見える。
「わかったよオリバー。あ、先に戻ってても大丈夫だけど…最後の人って施錠してから戻ったほうがいいのかな?」
ユニフォームを着替えるハリーはうなずいてから首をかしげる。小柄で素直で可愛いとあの双子が言っていたようにここ最近本当にかわいくなった。
だから首をかしげる仕草も細い首筋がよく見えてちょっとどきっとさえする。
じゃあ待ってると言おうとしたが、ドアをノックして返事を待たずに開ける音に振り向いた。
「グリフィンドールのクィディッチチームは風邪をひくのがよほど好きらしい。また風邪をこじらせるものが出ないよう、早く城に戻りたまえ」
よりによって入ってきたのはスネイプ。魔法で服や髪を乾かしているらしく、全然濡れた様子はない。
あの双子が前にぶつぶつと文句を言っていたから、蜂合わせると厄介だけど…幸いにも元気よく先に戻ったからここにはいない。
それでもなんでこの人ここにいるんだろう。
「すみません。今解散したところです。今メンバーの一人がシャワー室を使っているので、すぐ戻ります。」
ハリーと言えばいいけれども、常々ハリーとスネイプは仲が良くないのはわかっていたからつい名前を伏せてしまう。
なのにスネイプはポッターには課題のことで聞きたいことがあるって。
この人、本当にハリーセンサーでもついているんじゃないのかと思うほど、ハリーのこととなると間違いはないな…。
「先に戻っていたまえ。でなければマクゴナガル教授からまた怒られますぞ。」
痛いところを突かれて、言い返せない自分が悔しい。でもまぁ風邪をひいてと言っていたぐらいだから何か悪いことをするわけじゃないだろう。
ハリーも体が温まって風邪をひく心配もないだろうし。
だけど、さっさと行けと言わんばかりのスネイプにじゃあ、と声を上げたことに自分でも驚く。
「すみませんが最後の施錠をお願いします。」
スネイプ相手にお願いをするなんて僕も意外と勇気があるのかもしれない。
眉をしかめてまぁいいいと、良さそうに見えない顔で了承して‥。
「ハリー、先に戻ってるよ!」
声をかけると、すぐ返事が戻ってきた。
幸いにも競技場を出ると先ほどの雨は小雨になっていて、着替え終わったアンジェリーナたちがやってくる。
「こっちの施錠は終わったわ。あれ?ハリーは?」
「今様子を見に来たらしいスネイプが用事があるって。やっぱり待つべきだよな…。この前風邪拗らせたみたいだし…。」
これぐらいなら走って戻らなくてもいいわ、という彼女たちはあの双子が騒ぎながら戻ったことを知っているらしく、姿のないハリーに首をかしげる。
「スネイプの事だから時間かかるかもしれないし、待っていたなんて知ったらハリーが気を使うかもしれないから戻りましょう。流石にスネイプだって生徒を風邪引かせたりするようなことはしないだろうし。」
全く、という僕をしり目にアンジェリーナたちは互いに何か目配せして、やっぱり?と何かをささやきあう。
そろそろ玄関というところで何か忘れている気がする、と考えて…。
「あ!!!大事な作戦図、休憩室に貼りっぱなしだ!とってこないと…。」
いくらスネイプでもそれをみてスリザリンのやつらに情報を渡すようなことはないだろうけど…やっぱり気になる。
「あ、待ってオリバー。スネイプに鉢合わせると何言われるかわからないし…後で戻ったほうがいいわよ。」
走って戻る背中にそう聞こえたけど、そうもいかない。
とにもかくにも戻ると、まだ施錠はされていないみたいでほっとする。
すれ違っていないのだからまだ更衣室にいるのだろうとは思うけど。
廊下を歩いていると声が聞こえてきた。
うん、声が。
声だよなぁ…。
「やっ!そこ…ぁんっ!こんなところで…ぁ…また風邪ひいちゃう…ぁっ、そこ…気持ちいっ」
「風邪をひいたらばまた看病してやろう。」
「看病って…月曜日すっごく眠かったんだから…ひゃんっ」
「つきっきりで看ていただろう?」
「そっそこはげっ…ぁっ!ここ声漏れちゃう‥」
「もう全員出たことを確認している。残っているのはちょっとのキスで期待して誘ってきた悪い子だけだ。」
「ちょっとって…あぁん!いっちゃう…いっちゃんっっ!!!」
うん。まぎれもなくハリーとスネイプだ。
会話…会話かなぁ。
内容は…さておきというわけにはいかないのだけども…。
これ、これ以上廊下を進んじゃダメな気がする。
うん。
アンジェリーナ達の言う通り後でとりにこよう。
スネイプの事だから後始末はちゃんとしてそうだろうし、そうしよう。
足音を立てずに競技場を出て…
玄関に戻ると何故か目を輝かせたアンジェリーナやハリーの女友達であるハーマイオニーが待ち構えていて…。
「あの二人のこと知ってた?」
多分そういうことなのかといえば一層目を輝かせて、うんうんと頷く。
「ついにオリバーも知ることとなったのね。」
ついに…?ついに!?
「他にも知っている奴いたのかい!?」
「えぇっと、マルフォイと、ロンと、ネビルと…」
「あの写真の子でしょ?マクゴナガル先生とダンブルドア先生はハーマイオニーの次にしったのよね。」
「女子生徒には結構知られているけどね。だってスネハリよスネハリ。」
ワイワイと話す皆についていけない…。スネハリって何。
なんで略しているの?
なんなの!???
「この前、ハリーが熱出したときなんて保健室にいなかったのよ。」
「絶対、スネイプの私室…。」
「しかも寝室にいたっていうのが私の見立てよ。」
さっきの事を思い出して思わず顔をしかめる。容易に想像できたとかは内緒だ。
「わからないわ、もしかしたらどっかにソファーを置いてそこに横たえて四六時中見ていたかもしれないわ。」
「でもそれじゃあスリザリン生が来た時見られちゃうじゃない。」
「そこはスネイプよ?背もたれでちゃんと隠しているに違いないわ。」
「何かそのことについて言ってなかった!?」
早く大広間に戻りたいと、静かに後退していた僕にどの学年か知らない女子生徒がねぇと詰め寄ってきた。
えー…そんな…。じっくり聞いたわけじゃないし…。
「あ、つきっきりで看病ととか…。」
「やだ!!ごめん、めっちゃ萌えた!!」
「それ本当に看病だったのかしら?安静に出来たとは思えないわ。」
「ちょっとハーマイオニー!!妄想が爆発しちゃうじゃない!」
「オリバーもっと詳しく…ってあら?」
これ以上、彼女達の空間にとらわれてはいけない。
そう思って全力で離れて…大広間に逃げ込む。
だめだ、あの空間にいたら戻れなくなる。
朝早くにとりに行くと、やっぱり何の痕跡もない。
教師と生徒がいかがわしいことをした様な、そんな雰囲気もない。
うん、とりあえず、クィディッチに問題なければそれでいい。
フレッド達がスネイプに文句を言うのもなんかわかるような気がする。
けど、これはプライベートなことであって、チームメイトのメンタル管理としてはハリーがそれでいいなら干渉する必要はない。
でもスネイプかぁ…。次のスリザリン戦の時、勝ったらハリー…部屋に引き込まれそうだし、負けても同じことになる気がして…。
そういうことも一応考慮したほうが…いいのかなぁ。
キャプテンとして、こんな判断を迫られるなんて…まったくの予想外だったな。
~fin
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