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東洋の雨季が始まる6月初め。
壮絶なる戦いがやっと終わり、いよいよ社会の荒波に出る準備が進む中、
ハリーは空を仰ぎ見た。
「6月かぁ…。そういえば…6月って結婚すると幸せになれるって言うよね…。」
闇の帝王を倒した後に話があるといっていた当の本人は忙しいようで
ほとんどあっていない。
もっとも、ハリー自身怪我が元で少しの間入院していたせいでもあった。
「やっぱり…僕達って結婚式とか挙げるのかなぁ?」
「どうしたのよハリー。浮かない顔して。」
突然背後から声をかけられ、ハリーは驚いた様子で振り向いた。
「ハーマイオニー。居たの?」
「あら。さっきから声をかけていたのにぼんやりしていたのはあなたじゃない。」
ハリーはそんなにぼんやりしていたのかなぁ、と首をかしげていたがすぐになんでもないとごまかそうと首を振った。
が、ここは長年の付き合い。
ハーマイオニーのすぐ後ろに居るロンが、明後日の方向を見つつ、ハリーに聞こえるよう大きな声で先ほどあった人物のことを話す。
「そういえば…さっきスネイプを見かけたけど…なんか真剣な顔して紙と睨み合ってた…じゃなくて紙を睨みつけてぶつぶつ言ってたけど…。」
すべてお見通しといわんばかりの表情にハリーはただ苦笑するばかり。
「ハリーどうしたのよ。もしかして結婚したいとか?」
「え~っと…そういうことになるのかなぁ。ただ一緒に暮らせたらと思ったんだけど…。最近先生に会ってないし…話があるって言ってたのに全然来ないから…どうしたんだろうって思って。」
はぁっと大きくため息をつくと、これからフクロウ便を飛ばさなきゃと言ってハリーはその場から立ち去ってしまった。
「やっぱり…スネイプって小心者ねぇ。」
「早くしないと6月もスグ過ぎるって言うのに…。」
スネイプが何を真剣に迷っているのかなんてとっくに分かっている二人はハリーよりも大きなため息をついた。
「本当にじれったいわねぇ。」
「本当に…。ちょっとハーマイオニー!どこ行くんだよ!!」
突然歩き出したハーマイーニーにロンは慌てて後を追った。
大広間からホグワーツの地下室に戻っていたスネイプの元に向かうハーマイオニー。
軽くノックをすればすぐさま不機嫌顔をした部屋の主が現れた。
「失礼します。」
そういって強引に入り込んだハーマイオニーと恐る恐る歩くロン。
「一体なんだというのだね。我輩とて君達に付き合っているほど暇ではないのだが。」
「先生いつまで迷っているんですか!!ハリーが落ち込んでいるのに気が付いていないんですか!!」
いらだった様子で2人を追い出そうとしていたスネイプにハーマイオニーは怒鳴る。
「何の話だね?強引に入ってきたと思えば突然怒鳴り散らしたりと…我輩は忙しいのだ!用が済んだのならば即刻部屋を立ち去っていただきたい!」
「先生が何を迷っているのかなんてとっくにお見通しです!まったくいい年してそんなのことで悩むなんて・・男ならしゃきっとはっきりしなさい!」
深く刻まれた眉間の皺を更に深くし、誰もが震え上がるような声で怒鳴り返すと、負けじと声を張り上げたハーマイオニーに怒鳴り返されてしまった。
「我輩とて悩みたくて悩んでいるのではない!これはハ…ポッターに関してとても重要な事なのだ!あの子の人生を今から縛り付けるわけにはいかんだろうが!!まだ若いのだからな!」
「ハリーはプロポーズ待っているんです!!!私たちと同じくらい付き合っていたくせに今更なんですか!ハリーの人生を縛り付けたくないって、何言ってるんです!結婚の申し込みも出来ないんじゃどうしようもないじゃないですか!!まったく…。大体、早くプロポーズすればジューンブライド。分かります?今月に結婚すると幸せになるって言うんですよ?どうすればいいのか迷っている暇があったら迷信を信じて結婚しちゃいなさいよ!」
しばらくの間ロンがハラハラと見守る中、2人は睨み合っていたが、流石のスネイプも怒ったハーマイオニーの視線に耐え切れず目をそらす。
「第一に縛り付けたくないって英雄だからですか?男と結婚するのは相応しくないと。」
「ポッターはあの闇の帝王を葬った。ならば我輩でなくとももっといい者が見つかるかもしれん。世間的にもいい印象は無いだろう。」
「そう思うんでしたら…ハリーがヴォルデモートを倒した時、隠れもしないでキスしていたのはどういうことですか!アレ以来誰もがハリーの恋人が男で年上だという事に黙認しているんですよ?最近ではいつどこで結婚するのかというのが話題ですし。こんな薄暗い場所に居るから分からないんです!!」
言いたいことは全て言ったといわんばかりに、ハーマイオニーはずかずかと足を踏み鳴らすように出て行くとロンとスネイプだけが残ってしまった。
慌てて逃げ出そうとするロンだったが、入り口のところでスネイプに捕まり退出しそこねる。
「今の話は本当かね?」
「はっはい!ちょうど全員がハリーのほうを振り向いたところで…。あ、僕が関係をばらしたんじゃあないですよ?ただその様子とハリーのその後の様子で…皆期待しているだけですから!!先週からずっとその話で持ちきりです。…ここはひとつ意を決してプロポー・・・」
っとそこまで答えかけ、ロンはあわてて口をふさいだ。
スネイプの目が不機嫌そうに細められ、視線だけでバジリスクですら逃げ出しそうだ。
「そっそれじゃあ!失礼します!」
今度こそ扉から飛び出すとそのまま廊下を走り去っていく。
「まったく。騒々しい。だが…我輩とて準備すらしていないわけではない。」
ちらりと机の上に置かれた紙を見る。
そしてその隣に置かれた小箱を睨むようにして見つめた。
「私がプロポーズだと?なんと言えばよいのだ!!そんな恥ずかしい事などできるか!」
小箱に近づき中をちらりと覗きすぐさま閉じる。
どうして今更尻込みする必要があるのだと頭の中で自分に言い聞かせるが、どうにも行動に移せない。
「ふんっ!なんと言って渡せというのだ。ハリー受け取れ!死んでも永久に離さん!覚悟しとけ!とでも…」
「はっはい!?」
到底プロポーズの言葉とはいえないような台詞を、脅すような口調で言いながら小箱を突き出し、振り返った瞬間、きょとんとした顔のハリーが入り口に立っているのが見え、小箱は偶然にも目の前に差し出していた。
あまりの偶然の事に呆然と動けなくなったスネイプの目の前で、ハリーはポロリと涙を流した。
「セブルス…やっと…やっと言ってくれたんですね!!嬉しい…。」
泣きながら嬉しそうに顔をほころばせたハリーはそのままスネイプに飛びつく。
やっと正気に戻ったスネイプは事の成り行きを整理しようと混乱していた。
「あっ!あっこっこれは…そのだな…いや…あの…その…。」
上手く言葉が出てこず、あたふたとしたスネイプは、ぎこちなくハリーを抱きしめた。
こんなプロポーズをするのならばちゃんとT・P・Oを考え、言葉を慎重に考えるべきだったと深く後悔しつつ、もとよりするはずだったことを考え、ため息をつく。
こんなにも喜ぶとはグレンジャーの言っていたとおりだと思い、言われたようにさっさとプロポーズをすればよかったと腕に力を込める。
「ほっほっほ。ようやく言ったようじゃなセブルス。みな待ちくたびれておるぞ。」
今まさに口付けを交わそうとしていた二人の横で、突然聞きなれた声がし、弾かれるように2人は顔を離した。
いつの間に…否。
いつから部屋にいたのかとスネイプが問いただそうとダンブルドアに向かって口を開きかけ…
【パシャ!】
まばゆい光が当たりに立ち込め、煙が立ち昇り、とっさに腕の中にハリーをかばったスネイプに再び光がほとばしる。
「おめでとうございますハリー=ポッターさん!今のご心境は。」
「え~週間魔女のものですが。インタビューいいですか?」
「日刊預言者新聞のものです!」
「え~っと、暗く陰険で闇の陣営よりだったホグワーツ魔法薬学教授、セブルス=スネイプは英雄ハリー=ポッターに我輩のものになれと脅迫。英雄は愛の妙薬を飲まされたのか、涙を浮かべ脅えながらも承諾をした…。まぁ素敵ざんしょ。」
「マイハニー!なんだってそんな陰険な化け蝙蝠なんか。」
「さぁ僕らの店自慢の愛の妙薬を!そして僕達にその愛を!!!」
「ハリーおめでとう。よかったじゃない。」
「おめでとうハリー。僕も…頑張ってみようかな。」
一瞬にして停止していたスネイプの頭が再び動き出すと眉間にいくつもの皺が増える。
「一体いつからココに…。」
流石に新聞記者―――約一人には怒鳴り散らしたいところだが―――に対して怒鳴ることはせず、静かにかつ双子でさえ震え上がるような低い声で夢中にフラッシュをたく面々に聞いた。
「それはのぅ、2週間以上前からここに監視するための処置を施したのじゃ。スパイ容疑がまだかかっておったからのぅ。仕掛けるのは簡単じゃったんじゃよ。おかげで見逃さずに済んだんじゃぞ。」
今にも笑顔でブイサインを出しそうなダンブルドアに極限までの怒りを覚え、懐に入った杖に手を伸ばしかける。
「やぁハリー。おめでとう。ほら、ダンブルドア先生、僕が言っていた予想当たりましたよね。セブルスはなんだかんだ考えすぎて絶対肝心なところで失敗するって。それにしてもセブルスにしてはすごい勇気ある告白だったよ。」
やっぱりいたのかと、心の中でスネイプが毒付いているのに気がついていない様子で…
気が付いているのだろうが、ルーピンがニコニコといつもの笑顔で拍手を送っていた。
「ルーピン先生!あっありがとうございます。」
「本当に娘をハゲタカに取られた気分…冗談だよセブルス。かわいいかわいい教え子を不器用すぎる男に取られるなんて本当、複雑な気分だね。だからこそハリーを応援したくなっちゃったよ。でもまぁジューンブライドだし。」
幸せになるよね~っとあえて口には出さずにルーピンはスネイプににっこりと笑った。
もちろん、この笑顔にはもうひとつの意味があり、ハリーは幸せにならなかったりでもしたら…わかっているよね?
という押しでもあったりする。
それを十分知っているスネイプはただ睨みつけ、深いため息を心の奥底でするしかなかった。
「で、日取りは?」
「明日じゃ!」
「…はぁ!?」
「あっ明日なんですか!?」
「我輩に聞くな。ダンブルドア校長、何故即答で…しかも明日なんですか?」
記者の質問に素早く答えたダンブルドアはカレンダーを取り出すと、
「ほれ、もう6月が終わるじゃろう。その前に式をあげ、幸福な花嫁、ジューンブライドをとおもってのぅ。」
「しかし…それでは準備が…まさか既に…。」
「あとは主役のハリーとスネイプ先生だけですよ。」
「そうそう。もうしもべ屋敷妖精たちが、いい仕事だって喜びながら式場とかも全部用意して待っているんだよ。あ、それと式用のローブはもうマダムが仕立て終わっているから。」
ハーマイオニーがいつ、しもべ妖精のことを言い出すんじゃないかと心配していたと、ロンがハリーに説明したが、ハーマイオニーはジニーと――――先ほど到着したらしい―――結婚式に付いて語り始めていたのでまったく気にしていないようであった。
翌日、ニュース速報として数千万羽のフクロウが飛び交い、スキータの記事を本気にした人からは吼えメールがスネイプに。
それ以外はお祝儀の数々が送られ、ダンブルドアからは新居が送られた。
長年の付き合いからか、スネイプですら文句がつけないような場所で大きすぎず、小さすぎず、ハリーはうれしさのあまり何度も何度もお礼を言い、ダンブルドアは孫を見るような優しい眼差しで笑っていた。
ルーピンの付き添いでスネイプのもとへハリーがいき、手を取っ…。
「ちょっとまったぁぁ!!!」
突然扉が開き、男が入り口に姿を現す。
「シッシリウス!」
「そういえば…。あまりに早い式だったから…連絡し忘れちゃった…。」
「ハーマイオニー…。それはまずいよ。」
「シリウス~。もう式始まってるんだけど。」
式を中断され、ルーピンはいつもに笑顔でシリウスを振り返る。
「ハリーをそのクソやろうのとこまで運ぶのは俺の仕事だ!」
「シリウス!?僕達の事認めてくれるの!?」
落ち着いたときに話そうと思っていたハリーは驚いて聞き返した。
「無理。だけどハリー。お前の人生だ。だから俺はそこまで干渉が出来ない。が!スニベルス!ハリーがもし泣いて帰ってきたりでもしたら…吸魂鬼一ダース送りつけてやる!!!覚悟しておけ!」
一体どうやって送るつもりかはさておき、一応は認めたようで、ハリーのうれし涙が止まるを待ってから式は再開され、滞りなく終わった。
男泣きを見せるシリウスにルーピンが付き添いみんなで記念写真を撮る。
「じゃあブーケいくよ!」
ハリーが投げたブーケは高々と中を舞い・…。
「おっと。次の結婚は僕かなぁ~♪」
飛び上がる女性陣の後ろにいたルーピンの手にキレイに収まる。
ちらりとシリウスを見たということに気が付いたのはスネイプとダンブルドアだけというのは数ヶ月先までの秘密。
――おしあわせに★
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