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その手紙は大量の手紙とともに届けられた。
普段からラブレターというものを大量にもらっている彼にとっては気にもとめなかったであろう物だったが、なぜか心にひかかっていた。
“月陰より、あなたの事を想っています。”
それはラブレターと言えるべきものではないかもしれない。
だが、その差出人“R”と書かれているの手紙はなぜかシリウスを落ち着かなくさせていた。
「誰なんだよ。この手紙…。」
「さぁ。まぁ君にラブレター送るにしては何かおかしいよね。大体一行しか書いてないし、名前だって書かれていないし。スリザリン辺りの嫌がらせじゃないのか?」
隣りで今日送られてきたシリウス宛の手紙を読みながらジェームズは答える。
だが、それに対しシリウスはきっぱりと首を振った。
「あいつ等にそんな度胸はない。大体スリザリン独特の臭いがない。むしろどっかで嗅いだ事のある匂いだ。」
そう真面目な顔で言い、ジェームズは大広間に響くほどの大声で笑い始めた。
「臭い?本当に君は…犬だね。」
肩を震わし、涙目で笑っているジェームズを軽く叩きテーブルに山積みされていた羊皮紙を暖炉にくべる。
実際取っておこう物ならば一年間でトランク5台以上は必要になるからである。
一応人がいないときに燃やすので本人たちが傷ついたりはしない。
今は夕食前なので寮テーブルにも他のテーブルにもまったく人がいないのだ。
「パッドフット、そんな一気に焼くとまた…ほら。可愛いウサギの炎が飛び出してきちゃったじゃないか。」
大体10通に1通の割合で様々な呪文や魔法薬がついた羊皮紙があり、何も考えずに燃やすと今のように炎が動き出してしまったりする。
まだウサギはかわいいものだが、以前談話室で燃やした途端、火の鳥が羽ばたき始め寮内は大パニックになった事があるのだ。
「ところでムーニーは?」
「あぁ、図書室にいくって言ってたけど。」
ジェームズが杖を振るうとウサギは黒い墨を出し消える。
「また図書館か?最近多いなぁ。」
「期末が近いからだろ?」
“ま、僕達には関係ないけどね。”
と言うグリフィンドールの秀才は笑っている。
「でもまぁムーニーも監督生に選ばれているくらいだし、頭いいのにね。」
「ちょっと様子見に行ってくるな。そろそろ夕食が近いし。」
「あの手紙…最近は夜も曇りで月も見れないから月影なんていわれてもねぇ。大体逆だと思うし。」
にやりと悪戯を企むときの顔になると、ジェームズは楽しそうに目を細めた。
「まさか…。あの手紙の差出人知ってるのか?」
「ん~。大体わかるじゃないか。でもまぁ思い切った手紙だと思うよ。うん。」
“でも、わからないのなら絶対に教えないよ♪”
っと言われシリウスはやれやれと肩をすくめ、廊下に出る。
外はあいにくの雨で廊下には人が多い。
行く先々で女子生徒が行く手を遮るように側によってくるため、邪険にすることもできずシリウスの頭の中は常に曇り一色である。
図書室に入ると流石に追いかけは入ってこなかったが、時折刺さる視線にシリウスは苦笑せざるをえなかった。
「ムーニー?」
広い図書室の一番端の机にリーマスはいたが、勉強の疲れか今は熟睡中のようだ。
「まったく。こんな端で居眠りなんかしたら風邪引くぞ?」
隣に座り、伏せている頭をペシペシと叩く。
もぞもぞと軽く身じろぎをしたものの、寝顔がシリウスのほうに向いただけで、いっこうに目を覚ます気配は無い。
その寝顔に思わずドキッとしたシリウスは誰も見ていないのを素早く確認し確認し、溜め息をついた。
「つきかげ…かぁ…。プロングスの言う通り逆なのにな。」
もう一度誰もいないのを確かめると眠っているリーマスに屈みこみ、額にキスを落す。
「早く目を覚まさないととって喰っちまうぞ?」
耳元でそう囁けば、驚いたリーマスが飛び起き顔を真っ赤にする。
「なっ…///なんで???」
「リーマス。匿名の手紙出すなら匂いに気をつけないと。」
にやりとシリウスが笑うとリーマスはさらに顔を赤くした。
「んで、早速だけど返事させてもらうよ。」
じっとリーマスの瞳を見つめシリウスは手紙の答えを言おうと口を開く。
が、それをリーマスは手で制した。
「いいよ…。あ~あ。もう少し慎重に出せばよかった…。僕、人狼だし無理に返事はいらないよ。孤独(ひとり)は慣れているし。」
自嘲の笑みを浮かべるとどこか諦めたように言う。
「でも…どうしても我慢できなくて…。つい手紙出しちゃったんだ。シリウスがどう思っていてもいい。でも…せめて友達でいさせて。」
ふと、リーマスの脳裏に人狼として受けていた過去がさまざまと思い浮かび、うつむく。
「無理だね。」
あまりにも早い答えにリーマスは知らず知らずのうちに涙を流してしまった。
「おっおい。泣くなよ。せっかくの顔が台無しじゃねぇか。」
泣くとは思っていなかったらしく、シリウスはおろおろと辺りを見回したが皆夕食に向かったらしく誰もいない。
「その…。なんだ?えっと。無理って言うのは…。俺とは恋人じゃぁ…だめか?」
「えっ?だって…僕、人狼だし…。男だし…。」
「んなの関係ないって。俺は入学当初からお前が好きなんだよ///」
ふん、とそっぽを向いてしまったシリウスの耳は先ほどのリーマスよりも赤い。
「ったく。もっと早く言えよな。ず~~と俺の隣り死守しておいたんだからな。」
「あはは。だって君、すっごくモテてたんだもん。そんなこと言えないよ。でも空けといてくれて有り難う。」
自然に互いの距離が縮まり触れ合う唇。
「君はもう孤独じゃない。俺が心の通じ合う恋人になってやる。」
絶対に離さないというようにしっかりと抱き合う。
「いや~。熱いねぇ~。うん。熱いよお二人さん♪」
突然陽気な声が聞こえ弾かれたように離れる二人。
「じぇっジェームズ!?いきなり現れるなよ!」
割って入ってきた人物に抗議の声をあげるシリウスの隣りでリーマスはただ、固まってやり取りを見ているしかなかった。
「失敬失敬。やっと僕の苦労も報われたというか。ほんっと、不器用な犬と、恥ずかしがり屋の狼の二人を見ているのはなかなかのスリルだったよ♪」
“ご馳走様”と手を合わせるジェームズにシリウスはわけのわからぬ怒りが沸き起こっていた。
「まて、プロングズ。何時から知ってたんだ?」
「そりゃあムーニーの視線見ていたりとか、同じルームメイトとして君の寝言だとか。極めつけは昨日の晩、手紙を出している所を見たことかなぁ~。実際君に届いてたし。」
にっこりと楽しかったよ~と笑っている親友に、正気に戻ったリーマスはクスクスと笑いを溢した。
それにつられるように1傍観者として二人を見守っていた
ジェームズへの怒りはどこえやら、シリウスも笑う。
「あ!二人の関係が晴れて恋人になったみたいに雨がやんで晴れてる!」
おもむろに窓の外を見たジェームズは嬉しそうに2人を振り向く。
「明日はクイディッチ日和になりそうだな。」
「しばらく晴れるといいね。」
「そういえば…。」
「ん?どうしたんだ?リーマス。」
人気のない廊下を歩きながら寮に向かう途中で、リーマスはシリウスを呼び止めた。
「僕が寝ているときに月影じゃない見たいなこと言っていたけど…。それじゃあ僕は何?」
「聞いてたのか。そうだなぁ~。しいていえば太陽かな。俺にとっては眩しいけれど無くてはならない存在だし。」
「…聞いている僕が恥ずかしい。」
「たしかに。パッドフット。でもまぁ君が能天気な限り晴れは続きそうだけどね。」
「それ酷くないか?プロングズ。でもリーマスがいる限りこれからは晴れ一色生活だ。」
「じゃあ一生、離れないよ?間違っても雨にはしないよ。」
「どんとこい!俺こそ離れないからな☆」
「それはそうと…。二人とも夕食食べないのかい?僕はもう済ましてきたけど。」
「げっ!もう時間ねぇじゃん!」
「急ごっ!!勉強してたらおなかペコペコだよ!」
「ところでワームテールは?」
「腹痛で寝てるよ。」
「あっそう。」
「なにやってんだよリ―マス!走れ~。」
「待ってよ!!」
想いが通じた日は曇りのち晴天なり。
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