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White Xmas★
窓から冬の澄み切った空の向かって白い息を吐きだし、空を見上げる。
『今年のクリスマス…雪降らないかな。』
そう空を見上げてつぶやいたのは12月も始まったばかりの2週間前。
組んだ腕に顔をうずめるハリーは小さく最愛の恋人の名を声に出さずに呼んだ。
ハリーのつぶやきの後、恋人…ヴォルデモートから連絡がなくなってしまった。
連絡を取ろうにもヘドウィグは困ったように戻ってきてしまい、どうすることもできずにいた。
明後日はクリスマス当日。今年はなんだか暖かくて12月だというのに雪もまばらだ。
何があったんだろうかと、子供じみたつぶやきにあきれてしまったのかもしれない。
「ハリー大丈夫?まだ連絡つかないのかしら?」
どうしようもないと、談話室に降りてきたハリーの顔を見るなりハーマイオニーは読んでいた新聞から顔を上げ声をかける。
「うん…。最近新聞にも死喰い人の話題出てないよね…。」
もしかしたら何かあったのではないか、そうも考えるがどうすることもできない。
ハーマイオニーから渡された新聞には異常な雪に関する話題がここ数日続いていた。
呪いがかかった雪から色の違う雪まで何でもある。
呪いのかかった雪ということにまさか彼がかかわっているのではとも考えたが、こんな回りくどいことを彼がするはずがない。
彼がやるとしたらそれこそ雪を鉛に変えて建物を破壊してマグルを苦しめたり、飽きて一気に畳みかけたりそのまま何もせず立ち去ったり…。もっとも、そういったマグルへの陰湿ともいえるような行動はハリーと付き合いだしてからは極力抑えられ、マグルを殺めたという話はついぞ聞かない。
心配でため息をつくハリーにハーマイオニーは苦笑し、ばたばたという音共に談話室に入ってきたロンは手紙を握り締めて聞いてよ、と声を上げた。
「聞いてくれよ!この前家のそばに降った雪が淡いピンク色だったらしくて、隠れ穴がピンクに染まったんだって!!」
これ写真!というロンにハリーとハーマイオニーは写真をのぞき込む。
ピンクのキャンドルのようなかわいらしい姿になった家と、困ったように笑うウィズリー夫人が映っていた。夫人も嫌がっているというよりは面白がっているようで、写真ではおどけたように肩をすくめて見せてさえいる。
思わず顔を見合わせてくすくすと笑う二人に気が付かず、ロンはまったくと腕を組んだ。
「本当に誰なんだよ!なんなのさ!こんな変な雪…絶対誰かのイタズラに決まってる!」
「ヴォルじゃないとは思うんだけど…。連絡取れたら…聞いてみるよ。」
まだ笑いが取れないハリーは連絡が取れないことを思い出してしまい、少し声が沈んでいく。
そんな様子にも気が付かないようで、ロンはそれでも頼んだ、というとロン、とたしなめる声にハーマイオニーを見て…ぷいっと顔をそむけてしまう。
「何よロン!人の顔を見るなり顔をそらすなんて失礼しちゃうわ!」
怒るハーマイオニーにロンは何でもないといいながらも顔を背けたままで…。ハリーはそっとため息をついた。
ここ三日ほど毎日同じやりとりで、まともな会話すらしていない。
その原因を知っているハリーだがロンから硬く口止めされてしまい、素直に言えばいいのにとためいきをつく。図書室に行かなきゃ、というハーマイオニーに手を振り、ちらりとロンをにらむように見る。
『今年こそはハーマイオニーにプレゼントを渡そうと思って…ほら、前にホグズミードに行ったときにこれいいなって言ってたブローチだよ。それを買ったんだけど…。この前同じのを持っているのを見ちゃって…どうしようか困ってるんだ。いまさら買い替えに行く時間もないし…。』
そのホグズミードに行った日という日はハリーはスネイプの罰則で城にいたため、ハリーには知らないことなのだが、それでもロンは落ち着かないのか口早にどうしようと泣きついてきた。
いらないといわれるのが怖いのはハリーにも痛いほどわかることだ。彼へのプレゼント…前にホグズミードにいた際、目に留まって買ったのだが渡す機会が見えず、しまったまま。
ハーマイオニーと口をきいたら聞いてしまいそうで怖くて喋れないと訴える彼の気持ちがわからないでもないが、もう明後日はクリスマス。そろそろ決めなければならない。
「ロン、勇気を出して普通に接してごらんって!ハーマイオニーは絶対そんなひどいこと言わないから!」
でも、というロンの肩を強くたたき、大丈夫だというとなんだかハリー自身もまた勇気づけられた気がして、大丈夫、と強く頷いて見せた。
そして迎えた24日。昨晩降った雪が地面を覆ってはくれているが、朝には晴れて明日もまた快晴だということを物語っていた。
「今年はホワイトクリスマス…にはならないようね。」
ため息をつくハーマイオニーとともにハリーもまたため息をついてプレゼントの袋を見る。
「あ、でもハリー。暖かい方がいいんじゃないかしら。だってほら、例のあの人…蛇みたいだし…変温動物は冬眠の季節なのよ。もしかしたら最近連絡がないのは暖かくなる春まで待っているのかもしれないわよ。」
元気のないハリーを元気づけようとハーマイオニーは冗談交じりに微笑んで見せる。
そういえば蛇は冬眠するものだったかと笑い返すハリーはとりあえず彼と最後にあった場所に行ってみるよと腰を上げる。ヘドウィグとともに行って、もし会えなければ遅いプレゼントとしてヘドウィグにお願いをすればいい。
「気を付けてね…って言っても相手が本来気をつけなきゃいけない人物なわけだから…。会えるといいわね。」
ややこしいわ、というハーマイオニーにハリーはまた笑うと透明マントを羽織って談話室をあとにした。
赤い手袋とマフラーは彼のために買ったものとおそろいだ。寒そうな彼が身に着けるかは正直不安だが、どこかでおそろいのものを身に着けているのではと思うとなんだか照れ恥ずかしくて、いつも離れている分身近に感じられる気がして、気が付いたら選んでいた。
透明マントを着てこっそりやってきたホグズミードは静かながらにもクリスマスムードが漂い、各々が店先にツリーを飾っていた。
ヴォルデモートと最後にあったのはこの先の洞穴だ。あちらこちら見ながら歩いてきた時にはまだ高かった日がすっかり傾き、寒さにぶるりと震える。洞穴は少し寒さがしのげて、ハリーは透明マントを脱いでそっと空を見上げた。憎いほどきれいな空にため息がこぼれ、手に持ったプレゼントを見つめる。
彼は今どうしているだろう、とそっと白い息を吐く。ハーマイオニーから教えてもらったリンドウ色の炎を灯して彼といつも会う時間まで揺れる炎を見ていた。
ふと、風に混じって白い破片が見えた気がしたハリーは慌てて空を見上げる。
ほとんど雲のない空からは純白の雪がふわりふわりと舞い降りていた。
いったいどこから、と思うが夕日の残したわずかな光が当たってどこか幻想的で思わず見とれてしまう。ほほに触れた感触はあるのに冷たくはない不思議な雪はもしかしたらあの世間を騒がせている雪なのかもしれない。
それでもだんだんと積もっていく様子はとてもきれいで、手袋に乗せても溶けない結晶に目を輝かせ、ふいにさみしさを覚える。
こんな光景を彼と見たかった。隣に誰もないことがこんなにもさみしいことなのかと心細くなる。
「ヴォル…どうしたんだろう…。」
口に出してしまうとさらにさみしさが増してプレゼントの袋を抱きしめた。
「メリークリスマス、ハリー。」
ふいに背後から伸びた腕に抱きすくめられ、驚くハリーだがずっと聞きたくてたまらなかった彼の声に目を見開く。抱きしめる腕のなか、身をよじるとそれを見越していたらしく顎を救い上げられ口づけられる。そのまま反転させられ、より一層深くなる口づけにハリーもまた抱きしめ返すことで応じた。
やっと口づけから解かれるとまじまじと二週間ぶりの姿を目に焼き付けるように見つめる。薄いのか厚いのかマントをはためかせる姿は相変わらずで、青白い肌もあって寒々しく見える姿。何も変わっていないことにくすりと笑って背の高く痩せた体を抱きしめる。
「ずっと連絡取れないから心配したんだよ。」
顔をうずめ、嬉しさに顔がほころぶハリーをヴォルデモートは抱きしめながらハリーの頬をなでる。
「すまなかったな。ただ、このような行事には今まで無関心だった俺様だ。なので贈り物に少々時間がかかった。万が一巻き込んではならないとフクロウ除けをしていたことが災いしたな。」
目を細め、ほほ笑むヴォルデモートにつられるようにハリーもまた微笑み返す。これをと差し出されたのはガラスの置物。
ハリーが手に取ると色とりどりに光り、ガラスの中を雪が舞う。
まるで本物の雪のようなそれはくるくると舞い落ち、再びガラスの中を舞い上がっては落ちていく。
「ありがとう…すっごく綺麗。僕からはこれ。あとでヘドウィグに頼もうと思ったんだけど…直接渡せてよかった。」
ハリーはスノードームを握り締め、そうだとプレゼントを手渡した。貰うとは思っていなかったらしいヴォルデモートは驚いたように眉を上げてみせ、包みを解いた。
中からは深緑のスリザリンカラーのハリーと色違いの同じデザインが施された手袋とマフラー。
「ヴォル、あまりそういうのつけないとは思うんだけど、風邪ひいたりして会えなくなるのは嫌だから…。気に入らなかったらごめんね。」
無言で取り出すヴォルデモートに余計なお世話だったかな、と焦るハリーはどこか嬉しそうに身に着ける姿にほっと息を吐いた。
そのまま深く口づけるヴォルデモートにハリーはうれしくて強く抱きしめ返す。
二週間ぶりの逢瀬を埋めるかのように何度も口づける二人はそっと微笑みあい顔を突き合わせる。
「来年もプレゼント交換、やろうね。」
「あぁ。クリスマスというものもなかなか良いものだな。」
約束だというと、誓いの口づけをしたのだった。
すっかり遅くなってホグワーツに戻ったハリーは朝になってどこか満ち足りた顔で降りると、すでにそこには親友二人の姿があり、照れ笑いするようにチェスに興じていた。
ウィズリー家のセーターを着たロンの向かいに座るハーマイオニーの胸元には新しいブローチが輝いていた。
「あのさ、ハリー前に見たのはラベンダーのだったみたいで試しに着けてみただけなんだって。それによく見たらデザインも全然違くて…。」
「ロンってば匿名で出したくせにこれぐらいの箱開けた?どうだった?ってしつこくて。」
互いに笑う二人の手元のチェスは駒が変な配置になっているが気が付いていないようで、ルックとクィーンが顔を見合わせて困ったようにたたずんでいる。
「ちゃんとハリーも会えたみたいだな。夜遅いからちょっと心配したんだぞ。」
「さすがにうんと遅いわけじゃなかったけどね、すっごく晴れやかな顔してるし、会えたのね。」
良かったという二人に今度はハリーが照れたように笑って頷いて見せる。
「ちゃんとプレゼントも渡したし…。そうだ昨日ホグズミードでもあのへんな雪降ったねとても綺麗だったから思わず見とれちゃったよ。」
普段雪の結晶なんて見ない分、あれは本当にきれいだったと月に照らされきらきらと輝いたあの光景を思い出す。
「そうそう、あの雪誰かの魔法みたいよ。それもこのあたりだけに降ったって。まるで今までが実験だったみたいね。」
にっこりとほほ笑むハーマイオニーにきょとんとするハリーはそうなのかなと顔を赤く染める。
どうやらハリーのサンタクロースは恋人のためにならこんな無茶な願いもかなえてくれるらしい。
~fin
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