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新学期が始まって最初の大イベント
それがハロウィンだ。
そのハロウィンを一週間と望んだある日…突如として掲示板に貼られた紙に誰もが立ち止まり、読み終えると同時に歓声が上がる。
朝食のため急いでいる2人はあまりの人だかりに近づけず、先に入っているハーマイオニーに聞く事にした。
「あら。読んでないのね。まぁあれだけの人ですもの読むのは大変よね。」
「何があったの?フレッドとかジョージはすっごく嬉しそうな笑みを浮かべているけど…。」
「ダンブルドア校長もなんか楽しそうだし。」
不安げに辺りを見やる生徒は少なくもない。近くの友人を捕まえては何があったのかを聞いている。
「今年のハロウィンは全校生徒、仮装パーティーなんですって!だからこれから一週間、その準備のために授業が早く終わるのよ。それと一人だけなら家族や知人を呼んでもいいんですって。そう書いてあったわ。」
「うわ~~!さっすがダンブルドア校長先生!!毎年驚いてばかりだよ!!」
授業が早く終わると聞いたロンは嬉しさのあまりガッツポーズを取っている。
「だからハリー。例の秘密の恋人、呼んで見たらどう?」
「え!!!だって…。」
ハリーはとっさにヴォルデモートが来る事を考えてみた。
呼べばきそうな気もするが、どうなるかは分からない。
大体、あのダンブルドアがいるホグワーツ内に無事入れるかどうかも分からず…それに誰が招待したかなんてすぐに分かる。
そうなれば二人の関係は明るみに出てしまう…。
悩んでいたハリーの背後で声がし、振り向くとニコニコと笑うダンブルドアがいた。
「おぉハリー。今探しておったんじゃよ。これを渡そうと思ってのう。」
そういって差し出されたのは招待状。
「いつもは叫び屋敷でしか会うことが出来ないようじゃからのう。」
「え!?!?なっなっなんで…」
パクパクと口を動かすだけのハリーにダンブルドアは微笑み、楽しみにしとるんじゃよと言い残して去っていってしまった。
「さすがダンブルドア先生…。全部お見通しなのね。」
「宛名にはなんて書いてあるんだよ。」
放心状態のハリーからロンが面白半分に招待状を取る。
「だっだめ!!」
慌てて奪い返そうとするがロンはあて先人を口に出して読む。
「“ハリーの恋人…vへ”って肝心の名前かいてないじゃん。」
残念そうにつぶやくロンから招待状を取り返すと、ハリーはすばやく鞄の中へと入れた。
もちろん後でフクロウ便に出すためだ。
「v…あらハリー!すごい人じゃない!スペルはv・o・l…」
ハーマイオニーは少し考えるようなそぶりを見せながら、ウィンクをする。
一瞬、そのスペルの続きを考えるハリーだったが、すぐさま気が付きハーマイオニーを止めた。
「ダメ!!絶対ダメって…なんでそれだけで分かっちゃうの!?他にもいるじゃん!!」
そう。探せば一人くらいはヴォル…と続く人くらい…いや。
いるとしても40~60歳以降の人だけだ。それ以下の人はわざわざ恐怖の存在であったあの人と同じ名前なんて…まずつけない。
つけるとしたら…。マグル出身の魔法使いだけだ。
「ヴォ?なんか絶対今、出しちゃいけない名前の人が出てくるんだけど…。」
正解。ハリーは決して表に出さないよう心の中で頷いた。
長い手紙を添え、ヘドウィグを飛ばした返事は2・3日後に返って来た。
短く一言
“わかった。”
ひっくり返そうが、耳を澄まそうがそれ以上の答えは出てこない。
「これって…来るっていうことでいいんだよね?」
「そうね…。否定はしていないみたいだし…。きっと大丈夫よ♪」
ハロウィンに何着るのか考えなきゃ♪、とハーマイオニーは楽しそうに考える。
ハリーの衣装まで考えてあげると言い出したのだ。
一方、大広間ではいつの間にかハリーの秘密の恋人について噂が流れ、様々な寮からその“恋人”に対しての嫉妬やら、焦りなどが入り混じり、おまけに大人かもしれないと言う噂まで広まり、仲の悪いはずであるスリザリンとも手を組み、来るハロウィンへ備え準備を始めたのであった。
ハロウィン当日
結局ハリーの恋人に関しての情報が手に入らず、闘志を燃やし続けていた生徒達にも疲れが見え始めていた。
が、あるものを見つけ、一斉に生気が戻る。
今の今まで何も聞かされていなかったロンまでも驚いたように眼を見開かせていた。
もっとも…彼が目を奪われていたのは隣にいる彼女の姿かもしれないが。
魔法で作られた蝙蝠や本物の蝙蝠が入り混じりながら飛び交い、立食パーティーのように机が並び…中央だけ開けた会場となっている…。
その様子にハリーはあまり思い出したくないようなパーティーを思い出してしまった。
ため息をこぼし、自分の姿をもう一度見る。
「ねぇハーマイオニー…。変じゃない?」
「大丈夫大丈夫。とっても可愛いわよハリーv。絶対ハリーの恋人も惚れ直しちゃうと思うわ♪」
「…いろんな意味で暴走しなきゃいいんだけど。」
「一応…半世紀は生きているんだし。大丈夫よ!理性くらい制御できるはずよ。」
絶対無理と、口には出さずハリーはため息と供に吐き出した。
(様々な意味で暴走なんかされたら…ホグワーツが危ない…。)
大広間に入ったとたん、突き刺さる視線視線。
それもそのはず…ハリーが仮装しているのは茶色のワンピースに白いエプロン。
頭には三角巾までかぶっている。
「せめて三角巾はずしちゃ…。」
「ダメ。いいじゃない。可愛いわよ。」
どうして女装なの!という指摘は既にしてある。
そのたびに可愛いと言われ、とうとう諦めたのだ。
こんな姿見られたら…呆れるかも。
自分自身、何の仮装かも分からないこの姿。
それでもスカートの丈が絶対違うとハリーは直感的に感じた。
膝よりもやや短めの丈…。
全校生徒を飲み込んだ大扉は一度閉まる。
思い思いの仮装が目に入る。
ハーマイオニーは猫毛にちなんでいるのか、ネコマタという日本の尾が二つに分かれていると言う化け猫に仮装し、
ロンも同じく日本のものだが、赤髪をさらに赤くして、海賊漫画の“赤髪”と呼ばれるキャラクターになっている。
(そういえばフレッドとジョージが夜中に何かを交換していたような…。)
あっちでは吸血鬼…
こっちでは吸魂鬼。
あっちでは狼男…?ルーピン先生!?と顔を半分仮面に隠した黒髪の…シリウス!?!?なんだっけあの仮装。
…オ…ペんとかの怪人かな?
声をかけようと一度座った席から腰を浮かしかけた。
「それでは諸君。それぞれの来客が来たようじゃ。失礼のないよう、お出迎えするんじゃよ。」
だが、それよりも前に雪男…ダンブルドアの号令があり、広場は一斉に静まりかえる。
先ほど閉まった扉が再び開き、これまた不思議な仮装をした人々が自分に招待状を贈ってきた友人や家族を探してさまよっていた。
その中にひときわ目立つオーラを放っているものがいた。
真っ直ぐ…迷わずハリーのほうへと視線を向けている男…。
一纏めにし、ゆるく編んだ髪を肩から前へとたらし…とても上品に見えるいでたち。
やはり黒い服だったが、一見どこかの王子の様に見える正装。
いや、彼は王子に仮装しているようだ。
ちょっと年取っているが。
正体と言うか本性を知らない女子生徒の視線も自然とそちらに向いているようだった。
しきりに誰の親なのか、誰の招待客なのかと囁いている。
(これが誰もが恐れる闇の帝王だなんて知ったら…会場中卒倒しちゃうかもね。)
そんな事を考えながらハリーは自分の視線とヴォルデモートの視線とが絡み合うのを感じ、頬を赤く染めた。
一体何故ハーマイオニーは自分にこんな仮装をしたのだろうと疑問符が離れない。
その前に…ヴォルデモートの仮装を選んだのは誰だろうと言う疑問までわきあがった。
もちろん招待状に書かれていたことなんて知る由もない。
来客者達はそのまま大広間に入ってくると挨拶を交わし始めた。
立ち止まって仮装を褒めている人までいる。
マグルの人らしい人たちは天井の魔法や壁に浮ぶ蝋燭を指差しては驚きの声を上げていた。
立ち止まったままのハリーに向かって一直線にわき目も振らず…むしろ人さえ避けずに歩いてくる恋人…。
たいして仮装をしていないルシウスと話をしていたスネイプがちらりと視界に入れた瞬間顔を青ざめ、咽た。
苦笑を浮かべるルシウスに問い詰める。
ハグリッドは気が付いていないようだ。
ヴォルデモートは一度だけ視線を外し、ダンブルドアを睨みつける。
睨みつけられた本人は誰もが石化してしまうような睨みにニコニコと微笑み、パーティーの開始の合図を送り出す。
「それではわっしょいこらしょ、どっこいしょ。」
ダンブルドアの言葉と共に料理が一斉に現れ、パーティーは始まった。
だが、大勢の生徒はハリーとその謎の恋人に対し目を奪われて動かずにいた。
「なるほど…。あの老いぼれが招待状に書いていた一文はそういう意味であったか。」
静かな声が見上げるハリーに降りかかる。
意味が分からず首を傾げるハリーの目の前に片膝を付くと、急に近くなった顔に赤くなるハリーにかまわず…いや、周囲の集まる視線にすらかまわず軽…くない口づけを施す。
その様子に一部の女性達は黄色い声を上げ、ハリーの恋人に対し闘志を燃やしていた生徒達は叫び声を上げる。
マクゴナガルや、スネイプにいたってはそのままの体勢で石化すらしていた。
持っていたグラスが落ちて割れる音がする。
「ちょ…ちょっと!!みんなが見てる前で…。あれ!?」
長いキスが終わり、唇が離れた瞬間抗議の声を上げるが、自分の服装が変わっている事にハリーは気が付いた。
白く光り輝くドレス…ガラスの靴…。丈だけは短いままだがそれは間違いなく…。
「さて…。魔法は真夜中の12時までだぞハリー。」
そう、ハリーが仮装していたのはシンデレラだったのだ。
驚いた様子でハーマイオニーを振り返るとにっこりとした笑みがあった。
どうやらダンブルドアと手を組んで仕組んだらしい。
「変じゃ…ない?」
「あぁ。このまま会場から攫って行きたいほどだ。」
やっと石化した人々が動き出し、怪物になっている人は何事もなかったように装う為、近くに居る人を脅かし…衣装に出来などについて話し始めた。
まだ二人を見つめる者もいたが当の本人達はそ知らぬ顔…。
やがて音楽流れ始め、中央の開いた空間へと行きダンスが始まった。
「ところでハリー…。まだ聞いていなかったな。」
「どうしたの?ヴォル。」
パーティーも中盤に差し掛かり、ダンブルドアを中心にゲームが行われていた。
空いた席に座ったハリーに思い出したかのようにヴォルデモートは口を開き、にやりとハリーに向けて素敵な微笑み…他人であれば石化じゃ済まされないような笑みをこぼし耳元でささやく。
「Trick or treat?」
とっさに何を言われたのかわからない様子のハリーだったが、すぐさま意味を思い出し、急いでポケットを探る。
だが借りた服にお菓子も入っているはずがなく…。
目を細め、笑うヴォルデモートにそのまま両腕に抱かれ、ハリーは会場を後にする事となったのであった…。
―fin―
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