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こちら、外見だけは陰湿な叫び屋敷。
今日もそこでは外見にはそぐ合わない内装の部屋で、叫びとは違う声が響いていた。
一際高い声が響き、荒い息づかいのみが聞こえるようになる。
しばらくし、息が整った頃。
「ねぇヴォル。今度の夏休みの時、デートしない?」
「…良いが…俺様もお前も共に知られている顔だ。一緒に外を歩けるはずがなかろう。」
明るい声に対し、ヴォルデモートの声は相変わらず低くため息交じりの返答となった。
確かに、二人は全く違う意味で有名だ。
片や世界を恐怖に陥れている闇の帝王。
片やその帝王を一度退いた光の英雄。
けっして交わる事のない二人が付き合っていること自体あってはならないこと。
そんな二人が仲良く日の光を浴び、デートなんて…。
考えるだけでもヴォルデモートの頭は痛んだ。
「やっぱりダメかぁ…。」
落胆したように言うハリーを抱きしめ、ハリーの耳元でヴォルデモートはささやく。
「どうした。どこかに行きたいのか?」
「あっ・・・うん。この前聞いたところで…。ちょっと古いけど広い遊園地…。そこだったら人が多いから紛れ込めるかな~なんて思ってたんだけど。」
ふと、思案するようにあごに手をやると数秒後、にやりと笑う。
「なるほど。それにマグルの多い場所で俺様を捕まえるわけにもいかんからな。」
「なんで?僕そこまで考えてなかったけど。」
キョトンと首をかしげるハリーにヴォルデモートはにやりと笑った。
「俺様がただで捕まる訳がないだろうと連中はよく分かっているはずだからな。付近のマグルには多大なる犠牲が出てしまう事となる。連中はそれを避けたがるだろうからな…。」
「よかろう。ただし、できる限りは変装をしなくてはな。」
そう言って額の傷に口付けを落とすと、ハリーは嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。じゃあ休みが始まったらすぐに。」
そして迎えた夏休み。
「じゃあハリー、連絡しろよ。」
「ハリー、遊園地、楽しんできなさいよ。」
3人は今年も夏休みの連絡の約束をしつつ、ゲートをくぐった。
今年、ハリーを待っていたのはダドリー一家ではなく、一人の男の姿があった。
普段の黒いローブではなく、黒系に統一されたどこから見てもマグルらしい格好。
一つに結ばれた深緑の長髪。目にはサングラスをかけ、独特のオーラを放っているためか誰も遠巻きにしているその男。
ロンとハーマイオニーは一応ハリーから(地位・名前は伏せて)教えられていたが、それでも一歩後ずさりしてしまった。
ハリーはそんな事はお構い無しといわんばかりに男…ヴォルデモートへ向かって歩いていく。
「それじゃあ行ってくるね。」
「えっ・・えぇ。ハリー、彼?」
手を振っていこうとするハリーを呼び止め、ハーマイオニーは確認をする。
ハリーははにかむように笑いながら頷いた。
「本当に…大人の人と…。呼び名は何でしたっけ?」
「え~っと…ヴォル。」
流石にヴォルデモートと付き合っているとは思っていないハーマイオニーは、珍しい名前だと何も追求はしなかったが、やはりふに落ちないと言った様子で返事を返した。
「そう…。最近はまた例のあの人が活動しているって新聞に載っていたんだから気をつけてね。」
「あ~~うん。大丈夫。」
まさかその本人とこれから遊園地に行くなんていえないハリーは曖昧に返事をする。
その様子に不安を覚えたのか、ハーマイオニーはハリーを引っ張って男の前に行くと、ハリーの背を押しつつ、
「こんにちは。ミスター…えぇっとヴォル?遊園地に行くって聞いたんですけど、ハリーのことよろしくお願いしますね。最近じゃあ死喰い人が例のあの人とハリーを狙っているって記事が載っていたんで…。」
「…。」
一人の少女が本人に向かって真剣に言ったことにか、ヴォルデモートは失礼のないよう返答をしようとしたが、笑いすぎで肩を震わせていた。
「ちょっと!どうして…」
「すまん…。あまりにも真剣なようだったのでな。安心しろ。俺様が責任とって英雄殿を護らせていただくのでな。」
まだ笑いが抜け切れていない様子のヴォルデモートはそう言葉を続けるとハリーの肩を持ち、荷物を奪い取った。
「あ!!僕が持つよ!」
「大丈夫だ。別に重くはない。ミス…グレンジャーだったか。あの男…“例のあの人”は俺様には手をださん。少し知った仲なのでな。あのような蛇男、恐れるにたらん」
今度はハリーが吹き出す番であった。その頬をヴォルデモートが軽くつねる。
「そろそろご両親の元へ行った方がよかろう。心配しているようだ。」
サングラスを外し、軽く礼をするようにしてヴォルデモートはハリーの手を引く。
その赤い目にハーマイオニーは驚いたようだが、本人はそ知らぬ顔だ。
「大丈夫みたいだから。それじゃあハーマイオニー、また連絡するね。」
心配そうだが自信満々そうな男に連れられたハリーを見送るハーマイオニー。
彼女に声が届かないであろうと言う場所まで行くと、ハリーは再び笑い出した。
それにつられるようにヴォルデモートも笑う。
「まさか本人に向かって言われるとは思わなかったぞ。」
「それにしても自分のことを蛇男だとかあの男だとか…。思わず噴出しちゃったじゃんか。」
人気のないところまで行くと、懐から大きめなメダルのようなものを取り出しハリーを抱きかかえるようにして、一緒に触れる。
荷物ごと一瞬で移動するとヴォルデモートが根城としている場所に到着する。
「荷物はその辺において置け。」
言われるままにハリーは荷物を置くと、ヴォルデモートに飛びついた。
それに答えるようにヴォルデモートは身をかがめ、口づけをする。
「さて…本来ならばこのまま進みたいが…まぁよい。次のポートキーはこれだ。」
シュルっと髪紐を解くとそれを差し出す。
一緒に掴みながら再び口づけをすると一瞬で目的地である遊園地に到着をした。
「わ~~すごい人…。」
「魔法省も気が付くまい。」
人の通らない道から出てくるとそのままゲート近くに行く。
ヴォルデモートは髪紐を元に戻し、手馴れた様子で再び縛る。
ハリーにはどこから出したのか…おそらく魔法で造ったのだろうが、帽子をハリーの頭に被せる。
日よけと傷隠しのためだ。
「なんかの催し物でもあるのかな…。」
長い行列に驚くハリーだが、ヴォルデモートはただあまりの人の多さにイラついているようだ。
「ご主人様。」
背後から声をかけられ、ハリーは驚いたがヴォルデモートは遅いとでも言うようにピーターの差し出すチケットを受け取る。
もとい奪い取る。
ピーターはチケットが手を離れるや否や、すぐさま逃げるように鼠になり立ち去った。
「死喰い人って…本当にパシリみたいだね。」
「どうかしたか?」
ぼそりとつぶやく言葉は聞こえていなかったようでヴォルデモートは何なのかと見下ろした。
「いいや。なんでもないよ。あぁ見て!テレビ記者が居るよ!!」
「あぁ…。親子連れの来客数を調べているようだな。」
ゲートに近づくと数人のテレビ記者が親子連れが通るたびにカウントを重ねているようだ。
「僕達って親子に見えるのかなぁ。」
「まぁ大丈夫だろう。」
テレビなんて目に入らないと言った態度で傍を通り過ぎようとした…。
「おめでとうございます!!!あなた達で本日一万人目のご家族です!!!」
行く手をふさがれ、ハリーとヴォルデモートは脚を止めた。
いや、足を止めざるえなかった。
リポーターがマイクを片手にインタビューをしようとしていたのだ。
傍には遊園地のマスコットが自分の人形を抱え立っていた。
「え!?」
「あら、ご存じなかったのでしょうか?本日、日頃の感謝を込めましてこの遊園地では家族連れの一万人目のご家族に素敵なプレゼントをご用意していたんです!」
リポーターはマイクを差し出しつつ、ご感想はいかがでしょうか!?と、笑顔で聞いてくる。
「え!?えっと…。」
「…。」
どうしたらいいのかしどろもどろになっているハリーと、どうしたものかと頭を悩ませるヴォルデモート。
「すみません…驚いちゃって…。僕遊園地に行くのって初めてなんで…。」
「そうだったのか!?」
聞いていないぞと言わんばかりにヴォルデモートはハリーを振り返った。
それに対し、ハリーは曖昧に笑って言い忘れていたと言わんばかりの笑顔だ。
「あら!それじゃあいい記念になりますね!さぁ、こちらが素敵なプレゼント…一年間無料ワンデーパスと、デパートなどで使える商品券1万円分です!」
マスコットは、近くに居たヴォルデモートにそのプレゼントを渡す。
もっとも、来るときにサングラスを再びかけていたため、マスコットの中の人は恐る恐ると言った様子であったが。
ようやく解放され、ヴォルデモートとハリーはゲートを離れながらほっと一息を付いた。
振り返ると既に撤収用意をしているらしく、カメラについているマークが見える。どうやらカメラはご当地カメラのようでハリーには聞いた事のないテレビ局であった。
「魔法界には…伝わらないよね…。」
「念のため帽子は被せて傷は隠したが…魔法界の記者はうるさいからな。」
心配そうに背後を見るハリーを横目で見ると、ため息をつく。
そういえばと、先ほどのやり取りを思い出し一度も遊園地に来た事がないといっていたことを思い出していた。
「まぁ俺様も来るのは初めてなんだがな…。」
「え?ごめん。聞こえなかった。ヴォル、なんて言ったの?」
「なんでもない。それより…何に乗りたいんだ?」
入り口で捕まる前に貰っていたマップをハリーに押し付ける。
「えっと…。じゃあハーマイオニーがいったらまずのらなきゃって言っていたジェットコースターに乗りたい。」
何でもいい、とヴォルデモートは頷きマップを確認した。
「これに…乗るのか?」
「う~~んと…うん。これがジェットコースターだって。」
列車のような形をしているが引かれているレールは普通のレールとは異なりはじめに高く上ったかと思うと下り、グネグネと曲がりくねっている。
猛スピードで動くそれに乗客は恐怖の叫びとも、歓喜の叫びとも取れる声を発し、両手を挙げている。
どこが面白いのかと考えながらも並び順番を待つ。
20分ほど待った二人はようやく…それも先頭に乗ることが出来、発車を待った。
「全く…どこが楽しいんだか分からんな。」
「箒で飛ぶみたいな感じかな~?」
徐々に上がる斜面…。どうせ箒みたいなものだろうと2人は思っていたが…次の瞬間、猛スピードになるや否や落ちていく感覚に2人は顔を引きつらせた。
流石にヴォルデモートは叫びこそしなかったが、ハリーは叫びっぱなしで終わった後も妙な浮遊感に見まわれ、近くの椅子に座っていた。
「これなら箒の乗っている方が全然楽しいよ。」
「おそらくマグルはマグルなりにそれに近いものを楽しんでいるだろう。」
その後もいくつか乗っては見たものの、Gのかかる乗り物だけは二度と乗るものかと2人そろって心に決めた。
「ほとんど乗りつくしたようだが…此処には行かないのか?」
「え!?だって…そこ…お化け屋敷…。」
そんなところ絶対に行きたくないとハリーの目が必死に訴えているが…その反応をみて、逆にどんなマグルの幼稚な仕掛けがあるのかと思いつつ、ハリーの反応を想像して無理やり連れ込んだ。
当然、中は暗い。
そこに突然怪物の人形が現れるのだからハリーはそのたびに叫び声を上げ、ヴォルデモートにしがみついた。
予想通りの反応だと満足そうに笑うヴォルデモートは抱きついてくるハリーをそっと抱きしめ、涙目になっているハリーの目じりにキスを施した。
それは次第にエスカレートし…行為には行かないものの、暗闇で…しかもいつ誰が来るかもわからない場所で深い口付けを交わされ、ハリーとしてはかなりきつい状態にまでされた。
「やっやだぁ…こんなところで…。」
「わかっている。だから口づけだけにしているのだろうが…。それとも…今此処でして欲しいか?」
「ダメ…。それにもうすぐ…花火始まっちゃう。」
どうしても見たいとすがるように見つめられれば流石にここでやろうなんて事ができない。
やれやれとため息をつくが、立てそうにないハリーを軽々と抱きかかえ、そのまま出口へと行く。
数十分後、ハリーの要望で観覧車に乗った二人の目の前で空高く打ち上げられたはずの花火がはじける。
「うわ~~。綺麗。」
大観覧車はゆっくりと動きながら2人の乗るカゴを頂上へと運んでいく。
「魔法でも出せるだろうが。」
「いいの。魔法なんかよりもず~~っと綺麗だもん!!あ、ほらニッコリマーク!!」
空には様々な形をした花火が打ちあがっていた。きちんとした向きのものもあれば逆さまの物…。
たしかに魔法にはない花火ならではの味が出ていた。
「あれ?観覧車…止まっちゃった…。」
わずかな揺れの後、観覧車は静かに止まってしまった。
ヴォルデモートが下を見るハリーの傍でわずかに身じろぐがハリーは気が付かなかったようだ。
「マグルの造ったものだ。どうせ停電でもしたのだろう。」
不安そうな顔を向けるものの花火の誘惑に負け、窓の外へと顔を向けるハリー。
観覧車一つ止まったところではどうやら中止にはしないらしい。
ふと、赤い不思議な形をしたものが打ちあがった。
いくつもいくつも上がり、まともな方向をしたものも打ちあがる。
「あ!ハートだ。」
あたり一面を赤く染めているのは恋人達への遊園地からのサービス。
なんとなくハリーはヴォルデモートの方へ振り向いた。
「どうした?」
「えっと…その…。」
何故だかむしょうにキスがしたい…。
そんな事を考えるがどういえばいいのかハリーには分からなかった。
打ちあがるたびに辺りが赤く染まるが、消えても尚頬を赤く染めて見つめる顔。
そんなハリーの様子に気が付いてか、ヴォルデモートはにやりと笑い、声に出さずに望んでいたハリーの唇に先ほどと同じような深い口付けを与える。
こうしてハリーとヴォルデモートの初デート&初遊園地は幕を閉じた。
後日…。
朝からホグワーツへの手紙以降ないであろうと思っていた何百と言う梟便が届き、その中からやっと見つけた友人たちの手紙でその真相を知ることとなった。
中に同封されていた記事…
“衝撃激写スクープ!!ハリー・ポッター、恋の相手は中年男!?”
でかでかとした見出しに大きな写真…。
それは入場した時マグルに撮られた写真と…
お化け屋敷内の監視カメラに撮られていたらしい熱いキスシーン…。
幸いにもハリーの顔は写っていない上、写真のヴォルデモートはうまい具合に顔を隠して正体がばれないよう動いていた。
そして…。
2日も経たないうちに新聞編集長が襲撃され、錯乱呪文をかけられたらしく、余計に話題は大きく取り扱われるようになってしまった。
ただ、いくら騒ごうとも正体に気が付いたのはにっこりと微笑むメガネをかけた一人の老人だけであった。
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