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「セブルス、頼みがあるんだけど・・・。」
「何かね?リーマス。それに…ダンブルドア校長。」
そろそろ仮眠でも取ろうかと、うつらうつらとしていたスネイプは、突然のノックの音に覚醒を余儀なくされ、不機嫌度20%増しな表情のまま、心の奥でもしや最近姿を見せないあの子かと思い扉を開けたのだが・・・。
そこには元教員のリーマス=ルーピンと、ダンブルドア校長を見つけ、さらに眉間の皺を深く増やす。
「セブルス、ひとつお願いがあるのじゃが・・・。まぁ落ち着いて聞くんじゃぞ?」
ダンブルドアのいらずらっぽい輝きを秘めた瞳を見るなり、スネイプは面倒なことが起きたのだなと直感し、ため息をこぼすと立ちふさがっていた体をずらし2人を中に入れる。
「校長、失礼ながら今新たな魔法薬を煎じろというのならば2.3日授業を休ませていただきたい。いくら我輩といえどもさすがに体力の限界というものがありましてな・・・。」
脱狼薬にマダム・ポンフリーに頼まれている薬。そして授業の準備。そのほかダンブルドアからの雑用。
授業の準備としては難しい工程を説明するわけでも準備が複雑というわけでもないため、添えほど問題ではないが、脱狼薬と治療に使われる薬はそう簡単にはいかない。
「もちろんそのつもりじゃ。実は・・・ある赤ん坊を預かって欲しいんじゃ。どういうわけか他の先生方になつかなくての、お主しか残っておらんのじゃよ。」
分かっていると頷き、休みを取らせる予定だというダンブルドアに嫌な予感がするが、差し出された“もの”を反射的に受け取ってしまう。
それは紛れもなく生きた赤ん坊。それに赤ん坊はスネイプの腕の中で泣き声ひとつあげない。
むしろ笑っている。翡翠のような瞳はきらきらと輝いてさえ見える。
「やっぱり・・・。」
「愛じゃな。」
「これは・・・どういうことですかな?リーマス、ダンブルドア校長。」
通りで大広間で見ないわけだとスネイプは確信した。
額に刻まれた傷跡・・・見間違うはずもない。
「なぜハ・・・ポッターがこのようなことに・・。」
「実はのぅ、セブルス。どこかの生徒がハリーの飲み物に縮み薬を入れてしまったようでな、効果はすぐ消えると思ったんじゃがなかなか消えず、ミネルバの時はすごい泣き様じゃったのぅ。」
その時の様子を思い出したのかダンブルドアはくすりと笑う。
笑いどころじゃないだろうと強く言いたいが、手を必死に伸ばす赤ん坊を挟んでは怒鳴ることもできない。
「最近ハリーと君は、罰則が毎日になるくらい仲がいいみたいだったから、ハリーも安心できるかなって思ったんだよ。」
何が言いたいのかよく分かっているスネイプはルーピンを睨みながらふんっと鼻を鳴らす。
どうもこの男は苦手だと、手を伸ばし続ける赤ん坊を抱き寄せそっと背中を支える。
「もともと不完全な魔法薬じゃ。無理に治すのではなく自然と薬の効果が切れるのを待った方がいいじゃろう。もちろんその間授業はわしが見よう。それとマダム・ポンフリーへの薬はこちらで手配しよう。」
下手に反対の魔法薬を使って治すと今度はどうなるかわからんというダンブルドアにそれも一理あると徐々に体温を上げ、動きが緩慢になるハリーをじっと観察する。
「生徒が作った物であればおそらくは3.4日で戻るでしょうな。脱狼薬はまだしも、マダム・ポンフリーへの薬は今まで通りで問題ないはずでは?赤ん坊の世話ならば別にそこまで手間はかからないでしょう。」
あの双子ならばともかく、と考えたところで彼らが永遠に残るようなへまはしないとスネイプはため息をつき、四六時中そばにいるのだからほかの薬は生成できるという。
そんなスネイプにわざとらしいため息をつくルーピンはやれやれと首を振った。
「セブルス、君が赤ん坊の世話をしたことが無いのはよ~~くわかるよ。でもね、赤ちゃんはミルクをたくさん飲むし、おむつの交換だってしなきゃいけない。それにあやして寝かしつけないと。もともとが成長した生徒だっていうのはわかっていてもちゃんと見ないといけないんだ。」
僕とシリウスがどれだけ苦労したと思っているんだい?とそういうルーピンにそれで数日いなかったのかと、世話を誰がしていると思えばと納得する。そもそもしもべ妖精に任せっきりで生活能力ないぼんぼんとそろそろ月が膨らんできた男と…一緒にしないでもらいたいと内心で悪態をつき、うとうととしだした幼い(今は幼すぎる)恋人に目を向け、これぐらいなんてことはないと返した。
「まぁなんにせよ、何か困ったことがあればいつでもわしかリーマスか…暖炉をつないでおるから呼んでおくれ。セブルス、ハリーのことしっかり頼んだぞ。」
「うっわぁぁぁっぁあぁぁぁん。」
「えぇい、うるさい!いったい何時だと思っておるのだ!ポッター!!!」
ダンブルドアの計らいで部屋には防音の呪文がかけられており、真夜中に泣き出した赤ん坊の声はスネイプにしか聞こえない。
おかげで自分の寮生が睡眠不足にならずによかったと内心ほっとするのだが、なおも続く泣き声にどうしたものかとほとほと困っていた。
「何だ?オムツか?それならば1時間前に取り替えたはずだ!それとも食事か?こんな時間に・・・。」
イライラとスネイプが怒鳴るように言うとハリーの泣き声はいっそう激しくなる。
もともと喧嘩すると泣きながら怒り返してきたハリーだ。これでは効果が無いことはわかっている。
後で喉に効く薬を作ってやろうと考えつつ、オムツを確かめ、ミルクの準備に取り掛かった。
育児方法はマグルの世界とほとんど変わらないはずだが、真剣な面持ちで入れる分量、混ぜる時間・温度を正確に測り、まさに最適ともいえるミルクを作り上げ飲ませる。
案の定お腹がすいていたらしくすべて飲み干すと、満足げな笑顔で眠りに着いた。
「これでしばらくは泣かないだろう。」
なんだってこんな夜中にお腹を空かせることができるんだと、ため息をつくスネイプはハリーの口元をぬぐい、幸せそうな顔で眠るハリーを見ながら仮眠をとろうと目をつぶった。
「スネイプ先生!ポッターが赤ん坊を産んだって言うのは本当ですか!?」
突然開けられた扉からなだれ込んできたのはマルフォイを含めたスリザリン生数人。
当然、その大声と扉が開かれる音に驚いてハリーは声を張り上げて泣き出してしまった。
その声を聞いていっせいにどよめく。
本当だったのかよ!や、嘘だ~~!!や、誰との子供だよ~。や、産むなら僕の子を!など、
その大声はスネイプの疲れ果てた頭を痛めた。
とりあえず喚く彼らはそろいもそろって、ハリーをわが手にと考えていたようで・・・
そこまで理解したスネイプの覚醒しきれていなかった頭は一気に覚醒した。
「うるさい!一体何時だと思っておるのだね!これはポッター自身だ!大体、ポッターは生物学上でも男であって子を生む事はできん!」
施錠を確かめなかった自分にも非はあるが、仮にも教師の私室にノックもなしに怒鳴り込む彼らに青筋が立つ。泣き出したハリーを抱きかかえ、落ち着くように優しく背中をたたいた。
「スネイプ先生!数日前にポッターが飲んだスープに縮み薬が入っていてそれで一週間縮むことになったって本当ですか!?」
「ポッターが縮みすぎて赤ん坊になったって本当だったんですね!」
口々に話し出すスリザリン生にびきっとこめかみが動く。
「ダンブルドア校長から渡され、今解呪の薬を精製中だ!静かにしたまえ!!」
ハリーの小さな頭を抱えるように、耳を塞ぐように持つスネイプが唸るような声で怒鳴ると、ようやく静まる。
それより先ほどやけに詳しいものがいた気がする、とじろりと見つめるスネイプの前に見慣れたシルバーブロンドのマルフォイがではと、邪な心があるのかそれとも本心から心配しての言葉なのか、笑みを浮かべて進み出る。
「僕らがその間預かりますよ。幸い幼い弟、妹がいるものもいるので、世話はなれているかと。」
そもそも時間経過で戻るため、そのような薬は作る予定もないのだが、それを信じたらしい言葉に大丈夫だと首を振る。
頼むから善意であって邪なことはことではないという方にしてくれと、心の中で念じるスネイプはやはり先ほど聞こえた言葉が引っかかる。
やはり時間経過で治るようだが、そもそもの犯人がこの中にいる気がしてならない。
「これはダンブルドア校長よりの命令だ。生徒諸君は明日の授業のため、寮に戻り寝たまえ!そうでなければスリザリン生とは言えども減点もやむおえん。」
さぁ、ハリーを下ろし追い立てるように生徒を出すとバタンと戸を閉め、厳重に施錠呪文をかける。
これでようやく静寂が訪れた、とため息をついたスネイプはハリーを抱き上げ、改めてにこにこと笑うハリーを見つめた。
ごぅっと炎が上がる音を聞き眉間にしわを寄せて暖炉を見ればどうやら帰宅したらしいルーピンの生首がニコニコと笑っていた。
「大変みたいだね、セブルス。そうやて抱いている姿を見ると、本当の親子みたいだ。もっとも、ハリーとは親子なんて間柄じゃなくてというのはわかっているけどね。」
今は手を出したらダメだよと笑うルーピンにぶちりと何かが切れる。
「次から次へと‥我輩のストレスを増やすつもりか!!!」
ついに堪忍袋の緒が切れて怒鳴るスネイプにおっとと眉を上げるルーピンはそんな声出すとと忠告するや否やわぁッと鳴き声が響き、いらだったスネイプの神経を逆なでする。
とにかく今はこの目の前の性悪狼をどうにかするよりもハリーを泣き止ませなくてはとルーピンに背を向け、ハリーを抱き上げる。
泣きながら必死に手を伸ばす姿にじっと考えるスネイプはハリーを寝かせるため、ルーピンの目の届かない寝室へと消えた。
幼すぎる唇に軽く自分のを合わせると思惑通りぴたりと泣き止む。
赤ん坊になってしまってもハリーはハリー。
恋人からの口づけに泣き止み、嬉しそうに笑う姿にスネイプはふっと笑うと額に口づけ、眠るハリーを横たえる。
「ほんとハリーって破格的にかわいいよね。それに手を出すのはうーんと…ごめんやっぱりわからないかな。歳だってずいぶん離れているし、何よりやっぱり生徒と教師だからね~。」
暖炉から聞こえる声に杖を構えて戻ってきたスネイプは寝室に向かって防音の呪文を唱えるとリーマス!と怒鳴りつけた。
「見ていないでさっさと帰れ!!!」
「ご馳走様~。」
いっそのことこのまま水をかけてやろうかと、いらだつスネイプにじゃあよろしくと言って消えた。
その後も、仮眠を取ろうとしたタイミングを見計らったように現れるルーピンに業を煮やしたスネイプは呪いの呪文を散々かけたが全て笑ってかわされてしまい、これ以上増えないだろうと思われた青筋が更に増えた。
そんなこんなで3日目、スネイプに抱きしめられて目を覚ましたハリーは何があったかの記憶は無く、疲れ切った様子のスネイプをそっとしておこうと着替えて大広間へと向かった。
何が起きたのか、全くわかっていない様子のハリーを親友二人は戻ってよかったよと笑って迎え、一週間前に起きたことを二人から聞く。
どうやらスネイプの所にいたことは知らない様子の親友らにそんなことがあったのかと、驚くハリーはじゃあずっと先生が世話してくれたのかなと嬉しそうにほほ笑んだ。
その後、むすっとした様子のスネイプが大広間に入ってくると、どうしたのかと首を傾げ…久しぶりだという普通の食事に記憶はないものの、なんだかうれしくて上機嫌でシリアルを口に運ぶ。
ふと、なんだか今日は静かだ、と見まわすハリーは原因がわからず…スリザリン生からの飢えた視線にも気が付かず苦笑する親友らと何事もないように食事を続ける。
目が覚めたら赤ん坊の姿はなく…はっと飛び起きて…念のために用意してあった制服が無いことに元に戻ったのかとほっと胸をなでおろして。
ほっとしたと同時に今まで散々引っ掻き回してくれたルーピンに怒りを燃やすスネイプが放つ不機嫌オーラによって静まり返る大広間。
もちろん相手はそこにはいないし、行けば必ずもっと嫌な相手に会うことが分かっているスネイプは怒りを発散させるすべもなく、全くとあきれるマクゴナガルとにこやかなダンブルドア以外が萎縮する中、後でどうしてくれようと考えていた。
とにかく無事ハリーが戻ったことは幸いだが…そもそもの元凶がいる自寮をどうするか…怒りのオーラをさらに強めるスネイプに何も知らないハリーが嬉しそうに軽く目配せをして微笑む。
ハリーの世話もっとしたかったとぶつぶつ言うシリウスと共に、元凶であるルーピンは面白かったとにこやかに朝の時間を過ごすのであった。
ーーおしまい
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