アレキサンドライトの輝き

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皇帝の宝石  -蛇の花嫁-
 静かなプリペッド通りの一角、誰もが寝静まった闇の深まった頃、耳を澄ませなければわからないほどの小さな呻き声が風の音に混じっていた。
うなされているのはやっとホグワーツ4年生を終えた……生き残った男の子、ハリー・ポッターだった。魔法使いの世界から離れているマグルだけの生活の中、ようやく様々なことに落ち着いたハリーはあの三大魔法学校対抗試合の最後の課題で起きた……最悪の出来事をまるで追体験のように夢で思い返していた。
 セドリックが死の呪文であっけなく息絶えてしまった……。そしてよみがえった闇の帝王ヴォルデモート。つながった杖から搾り出てきた被害者たち。
本当に逃げられたのは奇跡の様なものだった。死を間近に感じたあの時、生きるために、逃げるために必死だったから怖いなどは感じなかった。だが、何もないときにあの時を思い返してしまうと震えが止まらなかった。

死が、怖い。



 涙を流しながら目を開けたハリーはあの死者たちのことを思い返していた。
ふとその記憶の中にハリーが知らなかったとはいえ、結果的にこの手で殺してしまった、命を奪ってしまったクィレルが浮かび、ハリーのことをじっと見つめている。
そういえばヴォルデモートもあの時、死者に囲まれ驚いたような、恐怖に近いような、そんなこわばらせた顔をしていたことを思い出す。

 彼も死が怖いのだ。

理由はわからないが、ヴォルデモートは何かを自分に感じ、そして自分を殺すためにあの夜襲撃してきたという。詳細はわからないが、恐らく死にたくなかったのかもしれない。脳裏にクィレルの命が消えていく叫び声が響き、ハリーは耳を塞いで体を守るように丸めた。
甘い考えかもしれないが、誰も……それこそヴォルデモートであっても誰も死んでほしくはない。殺されたくはないが殺したくもない。
「何かいい方法があればいいのにな」
 ぽつりとこぼしたハリーは今度こそ眠ろうと目を閉じた。


 家にいることも苦痛で、人の多い所ならむやみに攻撃しないのではと公園へと向かう。近づいてわかるのは何か催し物が行われているらしいということだ。どうやらフリーマーケットが行われているらしく賑わっている。
 なんとなくその中に混ざると、ちょうどハリーが入ったところは本を扱う人が多くいる場所で、魔法使い物などを見るとなんだか面白く感じてしまう。
実際にはこんな風にきらきらした星を出しながら杖を振るう人はいないし、簡単にものを生き物にすることだって難しい。
 ずっと昔は自分もこういう本や絵本をダドリーが飽きたおさがりとしてビリビリになって読みにくいのを読んでいたな、と遠いい世界のように感じて気の向くままに足を運ぶ。

 次は雑貨が集まっているところだった。その中でふと足を止めたハリーはきらりと光を放つ小箱に目を止めていた。
屈んで手に取るとそれは目の部分に青緑色のガラスの様なものがはめ込まれた、蛇を模した指輪が入った箱であった。
蛇をかたどるものはマグルでは少なくない。魔法界でもやや珍しいが無いわけではない。目を奪われたのはなぜなのかわからないハリーだが、両目にはめ込まれたものがきらきらと日差しを反射し輝く様子に不思議なものを感じていた。
「これはいくらですか?」
「あぁそれは昔買ったはいいが、つける機会を逃してね……2ポンドでどうだい?」
 以前グリンゴッツに行った際、小鬼に不審なものを見る目で見られながら換えてもらった、念のためのポンド札を取り出し払う。どうやら早く帰りたいらしく、ハリーの他に足を止めた人に安く渡していた。
 喧騒から離れたハリーは木陰で箱を開けてよく見てみる。シルバーの指輪には細かな鱗が彫られ、とてもじゃないがもっと高い物じゃないのかと、慌てるハリーはあの売主の場所を目で探す。
だが、誰かに店番を代わってしまったのか、それとも自分が見当違いの所を見ているのか……。なんだか悪いことしたなとポケットにしまい込んでまたぶらぶらと歩き、家へと戻っていった。



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◆目次◆

・昼のエメラルド -木洩れ日の光-

・夜のルビー   -水底の太陽-

・帝王の宝石   -蛇の花嫁-






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